授業制度改定「突然の告知」で波紋広がる 東京外国語大学で

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授業制度を改定するにあたり、発表の遅れや議論の不十分さなどから学内が揺れた東京外国語大学=東京都府中市で、明治大・山本遼撮影 拡大
授業制度を改定するにあたり、発表の遅れや議論の不十分さなどから学内が揺れた東京外国語大学=東京都府中市で、明治大・山本遼撮影

 東京外国語大学は2026年度から、各科目「90分×13週」の授業と2週分のアクティブラーニング(AL)という課題で構成していた独自の授業制度を取りやめ、「90分×15週」の授業に変更する。ただこの授業制度の改定に当たっては、学内への告知の遅さや議論が十分だったかどうかなどについて、疑問や批判が噴出した。留学する学生が大変多い同大の特性を踏まえた授業制度を、なぜ変更せねばならなかったのか。そのいきさつや、制度改定プロセスにおける問題を取材した。【東京外国語大・江藤心晴(キャンパる編集部)】

第三者評価で「改善を要する」と指摘

 同大が各授業に2週分設定しているALは、学生が主体的に学ぶことを目的に教室での学びとは異なる手法で設計される。多くの場合、リポートなどの課題を提出する内容だ。

 在校生の6割以上が留学を経験する同大。渡航準備などの時間を十分確保するには、授業週の長さがネックになる。そこで授業時間を13週に抑える代わりに、ALを2週分設定する手法を取っていた。

 しかしこのALは、学校教育法に基づき大学が原則7年以内ごとに受ける第三者評価(機関別認証評価)の過程で、文部科学省所管の独立行政法人である大学改革支援・学位授与機構によって問題視された。

 同大の佐々木俊治総務企画部長によれば19年度、ALの「教育効果の組織的な検証が不十分で、改善を要する」との評価を受けたという。同大は20年と23年の2度、ALの効果を説明しようと報告書を提出したが、主張は認められなかった。

 佐々木部長は「ALを残したままだと、来年度の認証評価で大学として不適合との判断がなされてしまう」と言う。もし不適合と判断された場合、「前例がないため不明瞭だが、多くの文科省の補助事業への応募資格がなくなってしまうことは確実。少なくとも不適合と判断された国立大学は本校が確認した限りこれまでになく、不名誉な第1校目になるわけにはいかなかった」と、ALの取りやめを余儀なくされた事情を説明した。

学内の掲示板には「授業時間延長について考えようの会」が教職員組合と連携して実施したアンケート結果が掲示されていた=東京都府中市の東京外国語大学で、明治大・山本遼撮影 拡大
学内の掲示板には「授業時間延長について考えようの会」が教職員組合と連携して実施したアンケート結果が掲示されていた=東京都府中市の東京外国語大学で、明治大・山本遼撮影

学生への説明は期限直前

 学内で方針を定める期限が6月末に迫る中、変更の必要性は、5月中旬に教員らに知らされ、その後一部の教員らにより非公式に学生に広がり始めた。ただ、大学側が公に学生に一斉メールの形で変更の必要性を伝えたのは、6月中旬になってからだった。

 こうした中、大学側の姿勢を問題視し、迅速な情報公開と学生が意思決定に関与することを求めて活動を始めた在校生有志の「授業時間延長について考えようの会」は、教職員組合と連携し、説明会前に学内アンケートを実施した。集まった約1400通の回答のうち、7割以上が授業形態を「変えないほうがいい」と回答した。

 アンケート期間中は速報ページが設けられ、寄せられた意見が随時更新されて広く学内に届けられた。学生や教職員からは「最大多数の利害当事者である学生の意見を聞かずに決めようとしていたことに驚きと怒りを禁じ得ません」(教員)、「アルバイトの稼ぎで生活しており、授業時間が伸びた場合、アルバイトの時間を減らす必要があるため生活にかなり支障をきたしてしまう」(3年生)、「(授業時間が延びると)集中力がとぎれ、教員、学生ともに精神的、肉体的負担が増えるのではないか。また、学生に対する通知が全くない状態で秘密裏に大学の授業体制を変えるのは良くないと思う」(大学院生)といった声が寄せられた。

「授業時間延長について考えようの会」が東京都府中市の東京外国語大学の講義棟内で実施したパネル展示=同会提供 拡大
「授業時間延長について考えようの会」が東京都府中市の東京外国語大学の講義棟内で実施したパネル展示=同会提供

収まらない動揺

 その後、大学側は学生向けに2回の説明会を開いた。大学側は当初「90分×15週」ではなく、授業時間の総数がほぼ同じである「105分×13週」に改定しようとしていたが、説明会では学生側から「授業時間が105分だと、5限終了が1時間以上延びて部活やアルバイトができなくなる」などの反発があった。説明会後、大学側は最終的に「90分×15週」への変更を決断し、同月25日に学生に一斉メールとビデオメッセージで通知した。

 大学側が改定を正式決定した後も、学内の動揺は収まらない。「考えようの会」は7月、東京都府中市の同大キャンパス内の講義棟で、授業時間改定に関する一連の動きをまとめてパネル展示した。同会の女子学生(21)は「今の執行部だけでなく、前学長にも、他の人にもこの問題の責任がある。学内でもっと話を開くべきだったのではないか」と述べた。

大学改革支援・学位授与機構からの指摘で、授業制度を変更せざるを得なかったことを説明する春名展生学長=東京都府中市の東京外国語大学で、明治大・山本遼撮影 拡大
大学改革支援・学位授与機構からの指摘で、授業制度を変更せざるを得なかったことを説明する春名展生学長=東京都府中市の東京外国語大学で、明治大・山本遼撮影

「勝手に決めていない」

 こうした事態を大学側はどう受け止めているのか。今年4月に就任した春名展生学長(50)は取材に対し、「本来であれば、去年から皆で議論できたらよかった。学長が代わるタイミングと重なりなかなかできなかった」と釈明した。その上で、「私の認識だと議論はしたつもりだ。(学長に就任して)かなり早い段階で話を提示した。5月中旬に教授会にて話をした。6月には全教員に対してアンケートも行った。勝手に決定したとの声が上がっているが、我々は勝手に決めていない」と説明した。

 説明会の場で、春名学長が「大学は民主主義の場だというのは、本当にそうですか?」と発言したことも混乱に拍車をかけた。学長が学生や教職員の意向を重視する運営や手続きを否定した、と受け止められたからだ。「学生に対応する名目で説明会を開いたが、本音は学生の気持ちを軽視しているのでは」など、批判の声が上がった。「考えようの会」の大学院生(27)は「他の大学には全学協議会という、学生が学校の話に参加する場があるところもある。学長は制度や決定は学生がするものではないと(説明会で)言っていたが、そういう実例がある以上、制度的にも理念的にも、何を根拠にそう言っているのか」と疑問を呈した。

東京外国語大学の教職員組合が発刊する組合ニュース。学長の説明会での発言が批判的に取り上げられている=東京都府中市の同大学で、明治大・山本遼撮影 拡大
東京外国語大学の教職員組合が発刊する組合ニュース。学長の説明会での発言が批判的に取り上げられている=東京都府中市の同大学で、明治大・山本遼撮影

 発言の真意について問うと、春名学長は「言葉足らずだったと思っている」としたうえで、「言おうとしたのは、教室の中では学生と教員は同じ地平に立って知を探究するという立場にあるとしても、授業制度はみんなの意見を聞きながら決めることではなくて、授業の効果に責任をもつ教員が決めないといけないことなのではということだ」と述べた。

「5年一貫制」導入の検討を表明

 今回の変更により、授業週が2週分長くなることで、夏休みなどを利用する留学への影響を懸念する声もあった。この点について春名学長は「現在当校で実施している夏期の短期留学について、相手大学の受け入れスケジュールを全て精査したところ、授業時間が現在より2週分長くなっても新たに参加不可能になるプログラムはなく、この変更によって学生の留学機会が失われることはないことが判明した」 と述べた。

 授業が「90分×15週」となることについて「考えようの会」の女子学生(21)は、「大学側は『105分×13週』で通そうとしていたが、最終的に撤回した。これは学生らが活動した成果と言えば成果だが、実際には教員らの意向調査で決めたのではないか」と話している。

「大学は民主主義の場ではない」との趣旨の発言について、「言葉足らずだった」と釈明する春名展生学長=東京都府中市の東京外国語大学で、明治大・山本遼撮影 拡大
「大学は民主主義の場ではない」との趣旨の発言について、「言葉足らずだった」と釈明する春名展生学長=東京都府中市の東京外国語大学で、明治大・山本遼撮影

 今後の大学のあり方について春名学長は「90分にしろ105分にしろ、そもそも大学の授業時間というのは長い。それとは別に、今とは違う未来を作っていく人を育てていくのであれば、現在の大学制度よりもっと長い時間が必要。可能な限り、多くの人が大学院まで行き、5年で卒業する仕組みを新たに作っていきたい」と、学部・修士5年一貫制の導入を検討していることを明らかにした。

 そのうえで、「大学は未来を創るプロジェクト。今にはない新しいアイデアを育てていかないといけないから、柔軟に考える必要がある。対話して、違う意見を引き出していくことが大切だ」と述べた。

 今後、同大でどのような「対話」がなされ、どのような発展が生まれるのか。そのプロセスに注目したい。

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