高校野球・夏の甲子園準決勝(21日)
○日大三(西東京)4―2県岐阜商●(延長十回、十回からタイブレーク)
「やりきった」
県岐阜商の「7番・ライト」の横山温大(はると)は試合を終えて開口一番、そう言い切った。
公立校で唯一の4強入り。69年ぶりの決勝進出はならなかったが、戦前に春夏計4回の優勝を数える伝統校らしく、胸を張って甲子園を去った。
強打を看板とする日大三と互角に渡り合った。1点を追う二回無死一、三塁。横山は膝元の変化球に食らいついた。
「なんとしてでも食らいつくつもりだった」と左手でバットを押し込み、最後は右手一本ですくい上げる。技術が詰まった同点の右犠飛だった。
この夏、チームはひときわ大きな応援を受けた。
私立全盛の時代にあって、ベンチ入り20人のほぼ全員が岐阜県内の中学出身。日替わりでヒーローが誕生し、準々決勝では春夏連覇を狙った横浜(神奈川)を延長十一回タイブレークの末に、サヨナラで破った。
親類に県岐阜商の卒業生を持つ部員も多く、満員のアルプスには「オール岐阜」の雰囲気があった。
主将の河崎広貴は言う。「打順のどこからでも点が取れ、全員が主役のチーム」。その象徴的な存在が横山だった。
生まれつき左手の指がないが、プレーを見ているだけでは気付かない人もいるだろう。ミートにたけた打撃を披露し、守備では捕った後、瞬時にグラブを持ち替えて投げた。
「自分のように体にハンディがあっても、『甲子園で野球ができるんだぞ』と見せたい」
横山はその思いを全身で体現した。
チーム一丸となって勝ち上がった創部100年の夏。スタンドから送られた奮闘をたたえる拍手は、しばらく鳴りやまなかった。【石川裕士】
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