快進撃を続け、公立校で唯一4強入りを果たした県岐阜商の戦いに、この日も注目が集まった。
開始早々に1点を許すも、動じなかった。二回裏、ともに3年の宮川鉄平、小鎗稜也が安打で出塁すると、横山温大(3年)が犠飛を放ちすぐに同点に。五回には坂口路歩(3年)の右翼適時打で逆転に成功した。
宮川の父勉さん(50)は「毎試合打ち続けてくれて、楽しませてもらっている。自慢の息子だ」と目を細める。小鎗の父佳太さん(49)は「頼もしい。甲子園で試合を見るのも4回目。ここまで来たらもう1試合見せてほしい」と期待した。
しかし、後半は相手の反撃にさらされた。先発の主戦、柴田蒼亮(2年)は六回以降、得点圏に走者を背負う苦しい場面が続く。八回は同点打を許し、九回には2死一、三塁と勝ち越しされる危機に。それでも安定した投球で5番打者を三振に打ち取り、延長戦に持ち込む粘りを見せた。
延長十回には相手の悪送球を突いて進塁。2死一、三塁で逆転サヨナラのチャンスを得たが、あと一歩及ばなかった。
粘り強い戦いぶりで多くの観客を魅了した県岐阜商ナイン。先天性障害で左手の指が欠損している横山は今大会、攻守で活躍した。「周りの子たちに負けないぞという気持ちでやってきて、今この場所に立てている。努力してきて良かった。ハンデがあっても、ここまでやれることを示せた」と胸を張った。
準決勝を投げきった柴田は「勝たせてあげられなくて悔しい」と唇をかんだが、「甲子園に戻ってきて、優勝できるように力を付けたい」と前を向いた。
準々決勝でサヨナラ打を放つなど大活躍だった坂口は「勝ち進めたのは後輩のおかげ。次こそは日本一を勝ち取ってほしい」と鼓舞した。
監督信じて「考える野球」貫く
河崎広貴主将(3年)
この日も何度もピンチに襲われた。そのたびにベンチから笑顔で声を張り上げた。「大丈夫、大丈夫!」。その言葉が、チームを何度も奮い立たせた。
昨夏、名将・鍛治舎(かじしゃ)巧前監督から藤井潤作監督に交代し、「打つ野球」から守備や配球などを「考える野球」に変わった。当初、選手たちはその変化に戸惑った。監督の教えがうまく浸透せず、昨秋と今春の岐阜大会はベスト8止まりで、県内強豪校としては物足りない結果が続いた。
「監督を信じて、やれることをやるしかない」。主将として、チームをまとめなければという責任感も芽生えた。監督と選手らの間に入り、声を掛け合うことで壁を少しずつ崩していった。
チームメートは「河崎がうまくまとめてくれた」と信頼を置く。夏前ごろから調子が上がり始め、強打と固い守備のバランスがいいチームに仕上がった。
甲子園準々決勝の横浜戦。延長戦で3点を奪われると、思わずマウンドに駆け出した。「楽しんでやろう」。選手らに笑顔で声をかけ、緊張をほぐした。
藤井監督は「どうしようかと考えていたら、河崎が間を取ってくれた。おかげで次の回も選手たちは笑って打席に立ってくれた。本当に助けられました」と感謝する。その後、県岐阜商はサヨナラ勝ちを収めた。
準決勝で敗れた悔しさはある。でも、「どんなことが起きても明るく前向きに、自分たちの野球を出せた。仲間がいたから頑張れました」と、最後まで笑顔を絶やさなかった。【道下寛子、長岡健太郎】
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