1960年代から90年代にかけて星新一、筒井康隆らの本の表紙絵を描き、都市の未来図で一世を風靡(ふうび)した愛媛県出身のイラストレーター、真鍋博(1932~2000年)。没後25年を迎え、松山市のミウラート・ヴィレッジ▽愛媛県美術館▽セキ美術館――の3館が連携して24日から企画展を相次いで開く。過去、現在、未来を見通す作品群。時間旅行のナビゲーターとして、長男の恐竜学者、真鍋真(まこと)さん(65)が2館で記念講演する。【松倉展人】
真鍋は旧別子山(べっしやま)村(現新居浜市)生まれ。多摩美術大で油絵を専攻し、卒業後すぐに個展を開くなど油絵で活躍した。60年前後から本の挿絵、装丁を手がけるようになり、文学、アニメーション、演劇などさまざまな分野の芸術家と刺激を与え合いながら多くの作品を発表。日本に「イラストレーション」のジャンルを確立した。
愛媛との交流は82年に県立図書館が開いた「郷土出身者著作展」から本格化し、作品を収めた新刊書、雑誌が本人の依頼で版元から図書館に送られるようになった。没後の2002年からは膨大な作品、関係資料が遺族から贈られ、原画や映像は県美術館、図書、新聞、雑誌、広告グッズなどは県立図書館が整理、保存してきた。県美術館が約2万2000点。県立図書館は約3万点。時代とともに広がった真鍋の全仕事を分類した両館のコレクションが今回の展覧会を支えている。
真鍋博展~ミライを拓(ひら)く
8月24日~10月19日、松山市堀江町、ミウラート・ヴィレッジ(089・978・6838)。学芸員の米屋公美子(こめやくみこ)さんによると、「未来は占ってはならない、創(つく)るべきものなのだ」という真鍋の言葉は、同館を運営する三浦工業などミウラグループの創業者で、芸術家でもあった三浦保(1928~96年)が未来につながる思考として重視した「ひらめき」と共通するという。今回は文明論としての真鍋の著作「超発明」(71年)「自転車賛歌」(73年)などの表紙原画を紹介するとともに、グループのテーマでもある「熱・水・環境」に関わる真鍋作品を展示。「未来を創造していくこと、未来を考え続けることをご覧いただければ」という。
真鍋博 カコをみる、イマをみる、ミライをみる
9月6日~10月22日、松山市堀之内、愛媛県美術館(089・932・0010)。1970年の大阪万国博覧会開催に合わせた作品や、「2001年の日本」(1969年)など、未来への思考やまなざしが感じられるコレクションを紹介する。喜安嶺(きやすれい)専門学芸員によると、真鍋は未来を「想像ではなく創造」と考え、過去や現在をしっかりと見つめるなかで「未来を視覚化する情熱」を保ち続けたという。
また、週刊誌「サンデー毎日」の企画で真鍋が67~68年に松山市など全国各地を毎日新聞社機で飛び、精密な鳥瞰図(ちょうかんず)に仕上げた「真鍋博の鳥の眼(め)」も紹介。「あふれるほどの情報量を見事に整理、表現した伝説の作品」に会える。
真鍋博と印刷会社2
9月12日~11月24日、松山市道後喜多町、セキ美術館(089・946・5678)。「世界のどこで刷っても、原稿と同じものが印刷される」(真鍋の言葉)。2020年に開いた「真鍋博と印刷会社」に続き、多くが印刷を前提とした真鍋のイラスト作品に光を当て、原画や印刷指示書、製版フィルム、校生刷りなどを展示。ルーペで出来栄えを確認するコーナーも。
同館を運営する総合印刷業のセキは真鍋が生涯最後に制作した2000年用の年賀状を担当した。その際に残した詳細な色指定、初校、再校のやりとりも紹介する。「職人のこだわり、腕が印刷物に克明に反映された時代。少しでも良いものをつくろうと指示が繰り返され、印刷オペレーターもそれに応えた」(関厚子副館長・学芸員)。一切の妥協を排した印刷表現に立ち会うことができる。
連続記念講演会「父・真鍋博の描いた世界」
講師は真鍋真・国立科学博物館名誉研究員。①真鍋博と、ときどき恐竜=10月4日午後2時~3時、ミウラート・ヴィレッジ。児童も楽しめる。同館へ申し込みが必要で、先着40人②真鍋博とタイムトラベル=10月5日午後2時~3時半、愛媛県美術館。手話通訳付き。同館へ申し込みが必要で、先着100人。
「(大阪万博があった)1970年から55年がたった現在も世界中で戦争が続いていることや、貧困が減らないことにがっかりさせられる部分は否めません」。真鍋真さんは取材にそう応えながらも「いつの時代も未解決の課題があり、『未来』という言葉の中にその解決の可能性が包含されているとしたら、世界各地の人たちが、現代とは異なる未来を願ったりする時間と空間に大きな意味があるはずです」と期待を込める。
さらに「新しい世代の人たちにも、新しい未来への『入り口』を感じていただけるようなことがあったらと願っています」と、三つの企画展を楽しみにしている。
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