「高校野球を引退する日に読んで」。日大三の本間律輝主将(3年)がバッグに付けているお守りの中には、10歳離れた姉からもらった手紙が入っている。いつもスタンドから応援してくれる大切な存在。「読みたいけど、負けたくない」。23日の決勝で最後の戦いに挑む。
お守りは姉彩香さん(28)から7月の西東京大会前にもらった。日大三のユニホームを模した小さな手作りのお守りには「三高」の校章やボタンが丁寧にあしらわれている。その中に、彩香さんは弟にあてた手紙を入れた。西東京大会を勝ち抜き甲子園に来られたのはお守りのおかげだ。
姉2人も日大三出身
彩香さんともう一人の姉遥香さん(24)は日大三の吹奏楽部で、それぞれ部長を務めた。本間主将が日大三に進学したのは2人の姉の影響が大きい。
小学4年だった2017年、吹奏楽の演奏をする姉2人についていき、春季都大会決勝の早稲田実戦を観戦した。試合は17―18で日大三のサヨナラ負け。姉の母校の敗戦の悔しさはひときわ大きかった。そして誓った。「日大三の野球部に入って甲子園に行く」
甲子園の常連校に入れば、簡単に勝てるのではないか。入学後、憧れの先輩たちを見ながらそんなふうに思ったこともあった。だが、現実は違った。
昨夏は甲子園にあと一歩
先発メンバーで出場した昨夏の西東京大会決勝は9―10のサヨナラ負けを喫し、甲子園への切符を逃した。相手は7年前の試合と同じ早稲田実だった。「目の前に甲子園があるのに、勝ち切れなかった」。最後のアウトを取るまで気持ちを切らしてはいけないことを学んだ。
だからこそ、高校最後の夏への思いは強かった。昨夏の西東京大会のあと、新チームの主将を任されたが、自身の性格をシャイだと表現し、「正直、(チームメートを)引っ張るのは得意ではない」と明かす。
自分のことで精いっぱいなのに、チームをどうリードしていくか、不安は大きかった。彩香さんは主将になったことを告げられた時のことを覚えている。「浮かない顔をしていて不安なんだろうなと思った。『歴代の主将のことは気にせず律輝らしく引っ張っていけばいいんだよ』と伝えました」
背中で引っ張る
本間主将は「考えても無駄だから、背中で引っ張っていこう」と決心。持ち味の打撃力を生かしてどんどん打っていく姿を見せ、チームメートを鼓舞した。
今大会の初戦の2回戦は、チーム全体で4安打に抑え込まれる中、三回に先制となる適時二塁打を放った。彩香さんはアルプススタンドで「プレッシャーを楽しめる強い選手」と時折涙を流しながら弟の雄姿を見守った。
準決勝の県岐阜商戦は一回に二塁打で好機を広げ、先制点につなげた。「優勝してから姉の手紙を読みたい」。その夢をかなえるまで勝利はあと一つだ。【洪玟香】
Comments