プロ野球の投手とコーチで34年間活躍してきた元ソフトバンクホークスの田之上慶三郎さん(53)が、福岡県糸島市でカフェ「itoshimacco(いとしまっこ)」のマスターとして第二の人生を歩んでいる。ユニホームを脱いで約2年。慣れ親しんできた舞台とは全く違うものの、「お客さんにおいしいと言ってもらえるのが一番うれしい」と話す。
田之上さんは1990年に指宿商高からドラフト外でダイエー(現ソフトバンク)に入団。2001年には13勝7敗で最高勝率のタイトルを獲得するなど07年までマウンドに立ち、08~23年(13~14年は日本ハム)はコーチとして若手を育成した。
転機となったのは、明治30(1897)年創業の老舗呉服店を引き継いでいた妻真喜子さん(56)が過労で体調を崩したこと。店舗の一部を改装してカフェを作る計画を進めていた23年夏、「自分が手伝うことで少しでも緩和できればいいかな」と決断した。11月のオープン後、エプロン姿で奮闘する夫を間近で見てきた真喜子さんには「全然畑違いなのに頑張っている」と映っている。
提供するメニューはコーヒーのほか、カレーやワッフル、ドライフルーツが入ったチョコレートなど。米や野菜、果物は支えてきたもらった地元の人たちに恩返しができるよう糸島産を使い、店名「いとしまっこ」にはその思いが込められている。
現役時代、「コーヒーといっても缶コーヒーぐらいしか飲んだことない」という野球人生からの転身。コーヒーの専門家から作り方の指導は受けたものの、「自信がつくまで1年ぐらいかかった」という。JR筑前前原駅そばのカフェには、現役時代を知るファンなども訪れており、今では「お客さんがたくさん来てくれて、忙しくてバタバタしたけどなんとかできたという時が一番充実している」と実感。「楽しませるとか、満足してもらうという意味では野球と一緒といえば一緒ですかね」と笑う。
「今後はメニューを増やし、販売も安定させたい」。年末に出身地の鹿児島・指宿市で開く野球教室もできるだけ続けていきたいという。【井上和也】
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