やっぱりお小遣い稼ぎに使われちゃった? いやいや、対策が功を奏している? 大阪・関西万博で徳島への関心を高めた来場者の来訪を後押ししようと徳島県が企画した仕掛けが、6月ごろから一部で意図しない形で「活用」されている。それは……。
フリマサイトでずらり
大手フリマサイトで今、「徳島県」「高速バス」というキーワードを入力して検索すると、ずらりと表示されるのは「徳島県への招待状」というクーポンだ。クーポンの表面左下には「徳島県まで、¥500」と少々、控えめな大きさの表記も。サイトでは、いずれも1000円や2000円といった値段が記され、多くは売買済みを示す「SOLD」という表示がある。
実はこれ、徳島県が大阪・関西万博で関西広域連合の一員として開設している関西パビリオンの徳島ブースで無料配布しているクーポンなのだ。徳島ブースは、「水とおどる 五感で徳島を体感!」をテーマに、吉野川の恵みでもある阿波藍染めや阿波和紙といった伝統工芸品を展示するとともに、映像を投影するプロジェクションマッピングの手法で「祖谷のかずら橋」や「阿波踊り」などの魅力を体感できるようになっている。
9万枚以上配布
体感したら、おのずと徳島を訪ねてみたくなるはず――。そう来場者心理を読んで企画されたのが、クーポンの無料配布だ。徳島ブースで申し出ると、関西と徳島を結ぶ高速バスやフェリーが片道、ワンコインの500円で利用できるクーポンが1人1枚もらえる。県万博推進課によると、8月15日までの約4カ月間で9万5317枚配布した。徳島ブースは1日平均2000人以上が訪れているといい、3人に1人以上はクーポンを手にした計算になる。クーポンを入手するため、関西パビリオンに行ったとの交流サイト(SNS)投稿もある。
高速バス88%引き
高速バスの場合、クーポンをバス乗り場などの窓口に持参すると、500円で片道乗車券が買える。大阪市内からJR徳島駅前までの正規運賃(大人)は4100円だから、88%引きで乗れる計算だ。
帰途の乗車券を正規運賃で買っても、往復で4600円と往復運賃(7380円)より4割近く安い。ちなみに、大阪駅から京都駅まで、JRの電車を利用した場合、大人の片道運賃は580円だから、「この機会に、徳島へ行ってみよう」と考える人も少なくないだろう。
6月ごろから次々
ところがこのクーポン、無料配布を始めてから2カ月ほどが過ぎた6月ごろから、有償での譲渡先を募る出品がフリマサイトに現れるようになった。クーポンは徳島ブースで受け取った来場者本人に使ってもらうこととしており譲渡は禁止だ。裏面の「注意事項」にも「本人のみ使用可能です」と記されている。県はフリマサイトでの出品を見つけるたび、サイト運営者に事情を説明し、対応を要請してきた。その数、複数サイトで数十件に及んでいるという。
記名方式で予防策
実はこういう「有償譲渡」は事業開始前から危惧されていて、県は徳島ブースでの無償配布時、スタッフの前で券面に名前と居住地の記入を求めた。譲渡された人が他人のふりをしてクーポンを使うのはためらうだろうという狙いだった。
実際、フリマサイトに出品されたクーポンの写真を見ると、名前や居住地の欄は、多くの場合、隠されている。県万博推進課の担当者も「徳島ブースでの氏名記入時に身分証明書の提示などを求めたわけではないが、名前を書かれたクーポンというだけで(フリマサイトなどでの)譲渡をやめた人もいるのではないか」と分析する。
予算尽き8月で配布終了
譲渡も相次いだクーポンだが、使った人には好評で、SNS上には、500円で購入した乗車券を高速バスと一緒に撮影した写真とともに「三ノ宮(神戸)-徳島駅が500円だったのがすごい」といった投稿のほか、徳島城を訪れたといった投稿などが数多く見られる。
担当者も「クーポンを使って徳島を訪れた人がSNSに魅力などを投稿して、さらに広がるなど、好評だ」と説明している。
9万5317枚配布されたこのクーポン、8月15日までに5941枚(6%強)使用された。このため、県が割引原資として計上した予算(2500万円)の上限に近づき、無料配布やクーポンを使った高速バスやフェリーの予約・購入を8月末で終了することが決まっている。8月中の予約・購入なら9月に乗車・乗船する場合も500円が適用される。
ただ、フリマサイトなどで入手したクーポンについては、窓口で譲渡が発覚し、正規運賃を請求されたケースも複数あるという。【植松晃一】
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