「オペラというのは全然好きじゃなかったんです。考えたこともなかったんですよ、自分がオペラを書くということは」
そう語る作曲家をオペラに向かわせたのは、35年前に発売された一冊の新書だった。日本とドイツを中心に創作活動を展開し、ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団など世界の名だたるオーケストラから委嘱を受けてきた作曲家、細川俊夫。通算8作目となるオペラ「ナターシャ」がこの夏、東京・新国立劇場で世界初演される。台本は日独2カ国語で創作を行うベルリン在住の作家、多和田葉子が手掛け、複数の言語が使用される。「多言語オペラ」という発想の背景にも新書の影響があった。
「オペラを作り始める時、この本を毎回読みます」。赤い表紙の岩波新書「オペラをつくる」。著者は武満徹(1930~96年)と大江健三郎(35~2023年)。国際的に知られた作曲家と作家のオペラをめぐる対話が収められている。オペラを作曲するという構想を持った武満は、若い頃から親交のある大江を「同行者」に迎えた。作曲家の早すぎる死により実現しなかったが、2人はまだ見ぬオペラの在り方を語っている。
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