関西電力は25日、福井県内の原発立地自治体の「地域振興」に充てる寄付金拠出の制度を新設し、福井県に報告した。寄付額は年間50億円を基準とし、原発の稼働率や燃料価格に応じて増減する。今年度から実施し、使い道は新たに設置する「第三者機関」が審査して決める。関電の直近3年間の寄付総額は年約1億~2億円だったが、新制度下で巨額の寄付金が継続的に拠出されることになる。【高橋隆輔、萱原健一】
関電によると、寄付額は、基準となる2023年度(稼働率76・6%)に対する稼働率と、化石燃料などを含む燃料の平均価格の変動を掛け合わせて決定する。原発が安定的に稼働し、化石燃料の価格が上昇するほど金額が大きくなる。24年度(稼働率88・5%)の実績を基にした今年度の寄付金は57・8億円になるという。
寄付金は信託銀行に預けられ、今年度は初期的財源として別に150億円も拠出する。関電から独立した第三者機関が、県や立地自治体などからの申請を受けて審査し、寄付を決定する。自治体で直接申請できるのは、関電の原発が立地する美浜、おおい、高浜の3町だけで、それ以外の市町は県を通じて申請する。
関電はこれまでも立地自治体などからの求めに応じて匿名で寄付してきたが、今後は福井県内での寄付はこの仕組みに一本化する。関電によると、直近3年間で同社が実施した寄付の総額(対象が福井県外のものも含む)は1億400万円~2億900万円だった。
この日、県庁で中村保博副知事と面会した関電の水田仁・原子力事業本部長は「7基を稼働させてもらっている福井県の地域振興に一層協力するため、客観性や透明性の高い仕組みを作った」と説明。中村副知事も「仕組みを明示したことは評価したい」と述べ、継続的な運用を求めた。
関電は現在、県内3原発の敷地内で使用済み核燃料の乾式貯蔵施設の設置を計画している。立地地域の振興や課題解決に向けた取り組みは、杉本達治知事が事前了解の判断事項としている4項目のうちの一つだった。
関電によると、拠出金は発電の原価には含めないため、電気料金への影響はない。ただ、同社の売上の大半は売電収入で、消費者が支払った電気代が原資となることに変わりはない。
政策判断への影響に懸念も
原子力を巡る政策判断の中立性は、ますます危うくなる――。関西電力の新たな地域振興の仕組みを取材した、率直な感想だ。
この仕組みでは、原発の稼働率が上がるほど寄付額が大きくなる。関電は「稼働率によって収益も変わってくる」と説明するが、原発はトラブルによる停止がつきものだ。再稼働には県や立地自治体に同意が求められることもある。もちろん、自治体も電力会社も安全を無視するとは思えないが、首長が首を横に振れば拠出額が小さくなる中で、その判断に少しの影響も与えることはない、と言い切れるだろうか。
拠出金の基準となる50億円という金額は、小規模な自治体の一般会計にも匹敵する。結果的に大きな影響力を持ち得る制度になっている。
一方、「赤字になれば寄付はできない」という。関電は現在、原発の新増設にあたって経営リスクを下げる制度の創設を国に求めている。今後、県がそれを後押しする場面があるとすれば、寄付が途絶えることを懸念しているのでは、との疑念も生みかねない。【高橋隆輔】
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