
自認する性を貫こうと10代からあがいてきた。性別適合手術も受けた。でも、世間は受け入れてくれない現実を知った。性別移行が人生のゴールではないのかもしれないと視野を広げた時、とらわれなくなった。取材を受けたいと思い立ったのは、将来像を描けずに苦しむ同じ立場の子どもたちに「男や女らしくではなく、自分らしく普通に生きることもできるんだよ」と伝えたかったからだ。【佐々木雅彦】
支局に届いた取材依頼
取材依頼は、中古農機具買い取り・販売店「農機具王」(全国35実店舗展開)などを運営する「リンク」(滋賀県近江八幡市)から、私(記者)の働く毎日新聞高松支局に届いた。「女性に性別を変えた社員が香川店におり、『ここでならありのままの自分で働ける』と語っています」と書かれていた。どんな「自分」なのだろうか。知りたくなった。
リンク香川店(香川県坂出市)には、トラクターや耕運機など大小約300点の農機具がずらりと並んでいた。その社員、森田涼子さん(34)は作業着姿で農機具の点検や来店客への対応、パソコンでネットショップへの出品作業もこなしていた。積載車を運転して農機具の買い取りに行くこともあるという。
森田さんは男性として生まれ、女性を自認するトランスジェンダーだ。松山市で育ち、幼い頃から女の子と一緒にいることが多く、しゃべり方や仕草も女の子ぽかった。周りから「おかま」とからかわれ、「男の子っぽく直そう努力した」。中学入学後すぐ、何事も男女別で行動する環境になじめず登校しなくなった。3年生の最後の3カ月は通い、卒業できた。
高校には進まず、最初の仕事先はスーパー。長い髪のまま男性用の服で働いた。トランスジェンダーであると職場に伝えていたのに、ある日、同社役員に「男性として採用したのだから、女性に見えるのは困る。髪、切っといで」と言われて辞めた。次のコンビニ店では女性の装いを許された。氏名も「涼子」に改名した。
同世代が高校を卒業して就職しだすと、昼間の仕事に採用されにくくなった。「採用側から見れば、私には高卒の資格がないし、性別もどう扱っていいか分からない。外見も、貫きたい性を誇張するように、金髪の盛り髪の、どぎついギ…
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