
忘れたくない、という。
2024年10月に世界の8000メートル峰全14座に登頂した写真家の石川直樹さん(48)がその歩みをつづった「最後の山」(新潮社)が27日、刊行された。
シェルパと呼ばれる登山ガイドと挑んだ登頂記であり、時代とともに様変わりする高所登山を描いた現代のヒマラヤ登攀(とうはん)史でもある。現地の人々との交流も記され、高校生の頃から旅を続ける石川さんらしい紀行としての魅力も味わえる。
「ヒマラヤで出会った人々、目撃したことをきちんと書き残したかった。断片的なものではなく、全体を見渡しながら、過去を振り返りながら、過程を含めて全部書いた」
転機はあるシェルパとの出会い
石川さんは01年、23歳の時に中国・チベット側からエベレスト(8848メートル)に初登頂した。11年にはネパール側から登り、本格的に8000メートル峰での撮影に挑むようになった。13年にローツェ(8516メートル)、14年にマカルー(8463メートル)と周辺の山々に登った。14座登頂を意識するようになったのは19年、一人のシェルパとの出会いだった。
世界の登山家に「ミンマG」の愛称で知られるミンマ・ギャルジェさん(39)。石川さんが「新世代のシェルパ」と呼ぶネパール人だ。この本のもう一人の主役でもある。
シェルパとはチベット語で「東方から来た人」を意味する。本来は17~18世紀にチベット極東からネパールに移り住んだ少数民族のことを指す。20世紀に入り、ヒマラヤ登山が始まると、ポーター(荷物運び)として雇われ、登山技術を磨いた。今や高所登山に欠かせない存在で、ガイドの代名詞となった。だが、それでは飽き足らないシェルパも現れた。
「ミンマGは無酸素や単独など、困難であっても自分の登山を追求するようになったシェルパの最初の世代。21年には世界で初めて冬季のK2(8611メートル)に登った10人のネパール隊の一人でもある。彼に焦点を当てれば、変化の波が分かると思った。人としても思いやりがあり、僕にとって本当の意味で友達と呼べる数少ない存在」
石川さんは、ネパール人初の無酸素…
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