
世界3大歌劇場に数えられるイタリアのミラノ・スカラ座。プロのオペラ歌手として、その舞台に立つときが来た。
9月に上演されるロッシーニのオペラ「チェネレントラ」の主役に抜てきされたのがメゾソプラノ、脇園彩さんだ。
童話「シンデレラ」を基にした作品に脇園さんはアーティストとして生きる意味を見いだす。
そして、役柄には自身の過去も重なって見える。
声が出ない、でも「ブラーバ!」
脇園さんが歌い演じるのはタイトルロールのチェネレントラことアンジェリーナ。この役を初めて務めたのは東京芸大大学院を修了し、イタリアに留学していた2014年のことだ。
脇園さんはスカラ座アカデミー(研修所)に所属するアカデミー生として子供向けの短縮版「チェネレントラ」に出演。これがスカラ座デビューとなった。
以来、はまり役の一つとしてイタリアや日本で幾度もアンジェリーナ役を務めてきた。
印象に残っているのが19年、イタリア・サルデーニャ島の都市サッサリでの公演だ。
「本番の直前に声帯炎になってしまったのです」
「チェネレントラ」に臨む脇園さんが声帯炎を患ったのは2回目。作品や役柄に呪われているような感覚すら抱きつつ、公演に先立って公開リハーサルが行われた。
客席は招待された子供たちで満席。劇場の関係者は「歌えなければイタリア本土から誰か(代役を)連れてくる」と気遣ってくれたが、脇園さんは無理を押して舞台へ。プロとしての責任感だった。
「(調子が悪いという)アナウンスはしてもらったのですが、とにかく声が出なくて歌えず語ったんです。それなのに、終わったら子供たちが『ブラーバ!』(女性への称賛の掛け声)と言ってくれました」
子供の熱狂を目の当たりにした脇園さんにはこみ上げるものがあった。そして気付けば、劇場の奥の片隅にいた。
「極限状態だったからかもしれないのですが、意識の中でロッシーニとアルベルト・ゼッダ先生が一体となって…
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