1986年に福井市で中学3年の女子生徒(当時15歳)を殺害したとして懲役7年が確定した前川彰司さん(60)に対するやり直し裁判(再審)の無罪判決について、名古屋高検は1日、上訴権を放棄した。事件発生から39年を経て前川さんの再審無罪が確定した。1日が上告期限だった。名古屋高検は「憲法違反や判例違反といった上告理由が見当たらなかった」と上告を断念した理由を説明した。
7月18日に言い渡された名古屋高裁金沢支部の再審無罪判決は、事件の捜査に行き詰まっていた警察が、元暴力団組員の情報を頼りに、なりふりかまわず「供述誘導」したと認めた。
前川さんの再審無罪確定を受けて、福井県警の増田美希子本部長は記者会見を開き、「反省している。疑念が抱かれることのないよう適正な捜査に努める」と述べ、深く頭を下げた。ただ、前川さんに対しては「長く負担をかけることになってしまったことについて重く受け止めている」と語るにとどめて謝罪はせず、捜査の検証も考えていないとした。
再審無罪に至る過程では、警察だけでなく、検察による公判活動の不正も発覚した。検察は、有罪の根拠となった関係者証言に事実誤認が含まれていたと把握しながら確定審で明らかにしていなかった。検察の「証拠隠し」は、再審無罪判決で「公益の代表者としてあるまじき不誠実で罪深い不正」と非難された。
この点、名古屋高検の浜克彦次席検事は報道各社の取材で、「裁判所から当時の検察官の対応が不公正と評価されたのは当然だ。真摯(しんし)に反省し、教訓にしていく」とコメントした。裁判所から指摘された問題に対し、高検として改善・周知していくとしつつ、前川さんへの謝罪や検証は現時点で不要との見解を示した。
事件は86年3月、福井市で発生。中学3年の女子生徒が自宅で死亡しているのが見つかった。事件に関与したとして前川さんが殺人罪に問われ、1審は無罪とされたが、2審・名古屋高裁金沢支部判決(95年2月)が懲役7年の逆転有罪を言い渡し、確定した。
第2次再審請求審で、名古屋高裁金沢支部が2024年10月、再審開始を決定し、25年7月に前川さんに再審無罪判決が言い渡されていた。【丘絢太、萱原健一、高橋隆輔】
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