危うく、大阪の二の舞となるところだった。自民党は参院選兵庫選挙区(改選数3)で最下位当選で滑り込んだ。日本維新の会や参政党と1万票差の接戦だったが、抜け出せたのはなぜなのか。陣営関係者が口をそろえるのは無所属新人の「あの人」のおかげだった。
全国13の複数人区で自民が議席を確保できなかったのは大阪だけだ。兵庫は現職の加田裕之氏(55)が28万5451票で当選した。次点の維新新人とは1万票差。党から2人が当選した北海道(改選数3)を除き、複数人区の党の当選者では次点に最も迫られた。
加田氏は初当選した2019年から18万票超減らした。当選者の得票としては66年前の約21万票以来の低さだ。自民自体も県内の比例代表得票数は47万票あまりと、前回選(22年)より16万票超減らした。
参政に「保守」流れ
公示前から苦戦の予兆はあった。県議らが支持者を回ると、「参政党のポスターを貼った」などの声が相次いだ。6月の尼崎市議選(定数42)では自民公認候補の総得票数が約6600票減る一方、参政の新人が6938票でトップ当選した。
選挙戦序盤には「選択的夫婦別姓の議論など石破茂首相のリベラル路線に長年支持してくれた保守層がどんどん離れていく」と陣営関係者は嘆くようになっていた。
さらに、加田氏は24年に党派閥の裏金事件で、派閥からの還流分を不記載にしていたとして党から戒告処分も受けていた。
公明にも票を削られ
連立与党の公明党もライバルだった。兵庫選挙区で改選数が1増の3となった16年から公認候補を擁立。今回は現職の高橋光男氏(48)が再選を目指した。
従来の当選ラインは40万票台だが、公明のコアな支持層は28万~29万票とみられる。支持母体・創価学会の県幹部は「自民から10万票はほしい」と漏らしていた。
複数の自民県議は公明側から支持者の名簿を2000人分提供するように求められたと話した。名簿を提供した別の県議は「選挙でお世話になっているから。衆院議員も公明票は欲しいはずだ」と打ち明けた。
「保守回帰」を強調
公示日の7月3日、加田氏の第一声には石破茂首相が駆け付けた。だが、陣営は中盤から保守色を強調。同13日には保守層に人気が高い高市早苗・前経済安全保障担当相が来援した。
翌14日夕、神戸市北区であった加田氏の個人演説会で地元市議は「(公明に)軒を貸して母屋を取られるような状況で互いにとってよくない。加田さんが推薦候補(の高橋氏)より下回っているという数字も出ている」と危機感をあらわにした。
加田氏は同区などを地盤とし、自身が秘書として仕えていた元衆院議員と安倍晋三元首相の命日が同じ7月8日で、「2人の父の命日だ」と声を震わせた。最終日には聴衆から握手を求められた加田氏が「安倍イズムを必ず復活させる」と語りかける場面もあった。
逃げ切れたのは「運」
20日の開票日。無所属新人の泉房穂氏は82万票あまりと、2位の高橋氏(34万票)の2倍以上で初当選した。加田氏のバンザイは翌21日午前1時過ぎ。次点の維新新人とは1万票差。参政党新人とも1万1000票あまりの差しかなかった。
逃げ切れた要因は何だったのか。開票時、テレビの速報を見ながら、ある公明関係者はこうつぶやいた。「泉さんが国民民主党や維新に行くはずの票を吸い上げてくれた」。自民県議団幹部もこう分析する。「ギリギリで勝てたのは運。泉氏があまりに強くて、参政や維新に票が行かなかったことも大きかった」【稲生陽、山田麻未、幸長由子】
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