動画ルポ・記者が見た東京都議選① 再生の道、ある税理士の挑戦

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演説後、「フレー、フレー、阿佐ケ谷!」と叫んだ「再生の道」公認候補の小澄健士郎さん=東京都杉並区のJR阿佐ケ谷駅前で2025年4月28日、大場弘行撮影(写真は動画から) 拡大
演説後、「フレー、フレー、阿佐ケ谷!」と叫んだ「再生の道」公認候補の小澄健士郎さん=東京都杉並区のJR阿佐ケ谷駅前で2025年4月28日、大場弘行撮影(写真は動画から)

 風をつかむのか、それとも地をはうのか。選挙に立った人はどのような苦闘を重ねて、有権者の信任を勝ち取るのだろう。

 選挙に挑む人のリアルな姿を知ろうと、私(大場)が取材したのは6月の東京都議会議員選挙。17人が6議席を争う激戦となった杉並選挙区の3候補に密着し、動画を撮影しながら、それぞれの戦いを追いかけた。

 当選5回を重ねた自民のベテラン、自民から国民民主に所属を変えた元区議、「再生の道」の新人。民意を得ようと苦闘する彼らの姿から見えたものは――。

記者がカメラを片手に候補者に密着した動画連載「民意をこの手に」。全6回の予定で、選挙のリアルに迫ります。
1回目 ある税理士の挑戦
2回目 自民ベテランの苦悩
3回目 国民民主選んだ元自民区議(4日10時公開予定)
4回目 自民VS自民(5日10時公開予定)
5回目 白熱の選挙戦(6日10時公開予定)
6回目 選挙とは 政治とは(6日10時公開予定)

 「本日初めて駅前に立たせていただくことになりました。みなさん、温かい目で見ていただけるとうれしいです。石丸伸二が立ち上げた地域政党『再生の道』、杉並区で立つことになりました!」

 都議選告示まで約1カ月半の4月28日夕、阿佐ケ谷駅前。雨が降る中、小澄健士郎さん(47)がマイクを握り、こう訴えた。街頭演説はこの日が初めてといい、どこかぎこちない。

 隣で妻の舞さんが演説中の小澄さんが雨にぬれないように傘を差し、1人の男性ボランティアが風で倒れそうなのぼり旗を押さえている。

 聴衆は3人。

 いずれも、昨年の都知事選で約165万票を得て旋風を巻き起こした石丸氏の支援者たちだ。

税のプロとして

 再生の道からは、都議選に42人が出馬した。ウェブ上の公開面接で選ばれた大手企業の社員や企業経営者らビジネスマンが大半で、仕事ができる「しごでき」集団と言われた。

 小澄さんは税理士で、スタッフ約40人の税理士事務所を経営する。その訴えの柱は、税のプロである自分が都議になって、社会保障制度を守るために都政の無駄遣いをやめさせることだ。

 減税や給付などの財政出動を公約に掲げる政党や候補者が多い中で異色とも言えた。

なぜ再生の道から

 再生の道が都議選で多くの議席を獲得すれば、既存の政党に対抗し得る新しい政治勢力の誕生となる。

 舌鋒(ぜっぽう)鋭い石丸氏は、熱狂的なファンを持つ一方、批判的な見方をする人たちもいる。小澄さんは、なぜ再生の道から出ようと思ったのか。

 「一番共感しているのは、党議拘束がなく、政策が是々非々だから。どこかの政党に所属すると、自分に合わないところが絶対に出てくる。政策を政党間の争いに使うのでなく、有権者目線でやるには、政党が邪魔でしかない」

常識を打ち破る挑戦

 再生の道が杉並選挙区に立てた候補は、小澄さんを含めて3人。選挙取材が長い私には、票が分散するリスクを度外視した無謀な戦略のようにも思えた。

 だが、小澄さんは票の分散の恐れについて「3人が役割分担、得意分野を生かして再生の道の知名度を上げていく」と意に介さず、「お祭りな感じがして楽しいです」と意気軒高だった。

 大学時代に応援団にいたといい、演説が終わるとマイクを置き、両腕を広げて「フレー! フレー! 阿佐ケ谷!」と絶叫した。近くの交番から警察官が思わず身を乗り出す。私も面食らったが、政治の常識を打ち破る挑戦はおもしろいと思った。

国会で見た衝撃的な光景

 今の政治に限界を感じているのは、国会で日々取材している私も同じだ。それが確信に変わったのは、2020年5月に目撃した衝撃的な光景だった。

衆院内閣委員会で検察庁法改正案の審議中にタブレット端末でワニの動画を見る平井卓也議員=2020年5月13日午前9時9分 拡大
衆院内閣委員会で検察庁法改正案の審議中にタブレット端末でワニの動画を見る平井卓也議員=2020年5月13日午前9時9分

 重要法案の審議中に自民党議員がタブレットでワニの動画を見始めたのだ。

 調べてみると、与野党に関係なく審議中の読書やスマホいじりをする議員がたくさんいた。背景には、法律や予算が自民党内の密室会議で決まり、国民の声を反映させる国会審議が退屈なセレモニーになっている実態があった。

杉並選挙区を舞台に

 心配になったのは、民主主義制度のもう一つの柱である選挙のことだった。

 有権者の代表を選ぶ制度も機能不全に陥っているのではないか。確かめたいと思っていたところ、4年に1回の都議選の時期が巡ってきた。

 今回は夏の参院選を占う重要選挙でもある。小澄さんの挑戦も見届けたい。私は杉並選挙区を舞台に取材を始めることにした。【大場弘行】

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