日米同盟の戦略的な再考を 安保超える基盤目指せ USAID元長官補

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マイケル・シファー元国際開発局(USAID)長官補=ワシントンで2024年3月14日、ロイター 拡大
マイケル・シファー元国際開発局(USAID)長官補=ワシントンで2024年3月14日、ロイター

 米国の対外援助事業を担った国際開発局(USAID)=トランプ政権が廃止=でアジア担当の長官補を務めた、マイケル・シファー氏が日米同盟の今後のあり方に関して毎日新聞に寄稿した。

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 第2次トランプ米政権の発足から半年間で、日米同盟は新たな不確実性に揺さぶられている。

 米政権の高関税措置を巡る日米両政府による22日の合意で、差し迫った圧力は緩和したが、交渉は激しいものとなり、長期化した。米国が日本車や農産品に追加関税を課すと脅し、在日米軍駐留経費の負担増や地域の安全保障への関与強化を日本に求めたことは、1980年代の貿易摩擦や同盟関係の緊張という痛ましい記憶を思い起こさせる。

日米共同訓練を見るため海岸には多くの島民たちが集まった=鹿児島県徳之島町の万田海岸で2022年11月18日午後1時43分、山口桂子撮影 拡大
日米共同訓練を見るため海岸には多くの島民たちが集まった=鹿児島県徳之島町の万田海岸で2022年11月18日午後1時43分、山口桂子撮影

 トランプ米大統領は同盟関係を軽視し、ロシアによるウクライナ侵攻では一貫性のない対応を見せる。対外援助も一方的に削減し、米国のリーダーシップへの信頼を揺るがしている。

 こうした動きは、技術革新、環境危機、人口動態の変化、大国間競争といった多重の圧力によって戦後国際秩序の基盤にひびが入る中、日米同盟の戦略的な安定感を弱めている。

 日本は米国にとって最も信頼できる同盟国の一つだ。経済力と高度な技術力、より積極的となった防衛政策を持ち、インド太平洋地域の戦略的課題や挑発的な中国への対応に米国と協力する独自の立場にある。これらの課題に米国も日本も単独で立ち向かうことは難しく、双方の目的が一致していなければさらに困難になるだろう。

 同盟関係で過去の誓約を再確認するだけではもはや十分ではない。急速に変化する地政学的な環境に対応するには、経済、技術、外交、軍事のあらゆる分野で同盟関係を根本から再考することが必要だ。

日米共同訓練で海から砂浜に乗り上げた水陸両用車から降りて、小銃を手に配置につく陸上自衛隊の隊員ら=鹿児島県徳之島町の万田海岸で2022年11月18日、山口桂子撮影 拡大
日米共同訓練で海から砂浜に乗り上げた水陸両用車から降りて、小銃を手に配置につく陸上自衛隊の隊員ら=鹿児島県徳之島町の万田海岸で2022年11月18日、山口桂子撮影

 実際、中国の台頭は冷戦時代の日米同盟のモデルでは対応できない現実を突きつけている。日本は現実を認識しており、防衛予算を倍増させ、他国のミサイル発射拠点などをたたく「反撃能力」(敵基地攻撃能力)を整備するなど歴史的な防衛力の強化に着手している。

 これは従属的なパートナーではなく、米国と対等に地域の安定を担う心構えの表れだ。米国も「米国第一主義」ではなく、戦略的な想像力をもって現実に対応しなければならない。日本とは防衛計画、技術革新、経済などの分野で統合を深めるべきだ。

 日米同盟は即時に断固とした行動を要する不安定な安全保障環境に直面している。中国は沖縄県・尖閣諸島や台湾周辺で、強引な軍事行動や武力行使に至らない手段で脅威を与える「グレーゾーン作戦」を繰り返し、北朝鮮は執拗(しつよう)に核・ミサイル開発を進める。日米は人工知能(AI)などの次世代防衛技術の共同開発や、全ての領域での部隊の相互運用性を確保することが必要不可欠だ。

 経済面でも、21世紀におけるルールの形成に重点を置かなければならない。デジタル貿易の枠組み整備や、サプライチェーン(供給網)の強化を先頭に立って進めるべきだ。インド太平洋地域におけるインフラ整備や海洋安全保障、気候変動対策への共同投資も重要だ。これは対外援助の削減を見直し、開発を戦略的手段として位置づけることを意味する。日米の協力で、中国主導の巨大経済圏構想「一帯一路」に代わる魅力的な選択肢を提示することができる。

 日米同盟は単なる安全保障の枠組みを超え、インド太平洋地域での共通戦略やイノベーション、ガバナンスのためのプラットフォームとなるべきだ。この半年間は、日本と米国にとって困難な時期だった。しかし、我々は同盟を21世紀に真の変革をもたらすものとして構築するチャンスを有している。【訳・飯田憲】

Michael Schiffer

 米国防次官補代理(東アジア担当)、上院外交委員会の民主党スタッフ上級顧問や米国際開発局(USAID)長官補(アジア担当)などを歴任。米国の外交・防衛政策や、インド太平洋地域の安全保障などが専門。

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