
「担ぎたい」という熱意が、津波に襲われた街に残る唯一のキリコを動かした。
石川県珠洲市宝立町地区の「宝立七夕キリコまつり」は8月上旬に開催される。6基のキリコが夜の海に入り、たいまつの周りを巡る「海中乱舞」が見どころだった。しかし、2024年元日の能登半島地震で地区では人命も失われ、キリコも津波にも襲われるなどして5基が激しく損壊。この年の祭りは行われなかった。
転機は25年春。唯一残ったキリコの状況を確認しようと住民らが倉庫へ訪れた時だった。自然と今年の祭りをどうするかとなり、若手から「キリコを担ぎたい」と声が上がった。刀祢唯人さん(21)にその理由を聞くと、少し不思議そうな顔をして、「好きだから……ですかね?」。祭り復活の流れが決まった瞬間だった。
祭り当日の2日、珠洲市の名所、見附島に近い公園の駐車場でキリコが担がれた。「ヤッサー、ヤッサー」。かけ声とともに担ぎ手たちは拳を上げる。それぞれの町会のはっぴを着た住民たちが一緒になって唯一のキリコを担いだ。担いでも担ぎ足らないのだろうか、小休止をする度に「もう一度やるぞ!」とすかさず声がかかる。「簡単に言ってくれるなよ~」と苦笑する取締(責任者)の宮崎仁志さん(48)の顔には充実感があふれていた。
約13メートルの高さがあるキリコを見上げようとすると、顔は自然と上を向く。「上向きに、前向きになるきっかけになってほしい」。宮崎さんの願いは、この地区の人々の願いでもある。【岩本一希】
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