「みえないもの」あるいは、多くの人が見ようとしないものに心を砕く人は、他者の痛みを受け取り、ときに傷つくかもしれないが、それ故に世界の豊かさをより享受できるのだと思った。
著者はルーマニア生まれの文化人類学者。現在は青森県内を主なフィールドに、獅子舞や女性の信仰を研究している。前作『優しい地獄』は、民話の世界のような祖父母の暮らしや、独裁政権下での生活、チェルノブイリ原発事故の影響などを背景に、自身の記憶や思索を語る自伝的エッセーだった。とはいえ、ひとつのジャンルに閉じ込めてしまえるような文章ではなく、文字を追っているのに、目や耳や皮膚が直接刺激されるような感覚が読みながらあった。本書『みえないもの』(イリナ・グリゴレ著・柏書房・1980円)の語り…
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