一組のカップルが、飛行機を降りてくる。スペインのバルセロナから、アメリカのニューヨークへ。長旅の疲れの中にも、これから新天地で始まる生活への高揚感が隠しきれない2人。ところが、入国審査のためにパスポートを差し出すと、何の説明もないまま、奥の部屋へと案内され……。果たしてディエゴ(アルベルト・アンマン)とエレナ(ブルーナ・クッシ)の運命は。
これが、現在公開中のスペイン映画『入国審査』の導入部。共同監督のアレハンドロ・ロハスさんとフアン・セバスチャン・バスケスさんの、長編デビュー作にして世界の映画祭を席巻する話題作だ。

アレハンドロ・ロハスさん(右)、フアン・セバスチャン・バスケスさん(左)
終始不安そうな2人の成り行きを見守る77分。海外を訪れたことがある人であれば、異国でゆえなく高圧的に接されたことへの戸惑い、理不尽に冷たくされることの焦り、うろんな目を向けられる怖さ、そして人権を踏みにじられることへの強い怒り。そのすべてに共感を抱くだろう。否、海外に出たことがない人にも十分に伝わってくる。そんな示唆に満ちた作品だ。
今だからこそ?
「これは、僕たちの身に何度となく起きたことなんです。ある意味、何もドラマティックではない」と語るのはロハスさんだ。「僕たちは、主人公の1人ディエゴと同じベネズエラの出身です。アメリカという国は、ベネズエラのパスポートを見ると、『何か問題があるんじゃないか?』『こいつは何かを企んでいるんじゃないか?』と、疑わずにはいられないんです。僕らは、本当になんのいわれもなく、第二審査室に連れて行かれてしまう。そこは緊張感のある恐ろしい場所です。完全に外部から孤立させられ、家族にも何も告げられません。何が起きているのかわからないまま、2時間、3時間と待たされる時間が続く。よくあることです」
すると、バスケスさんも続ける。「実際、この脚本の執筆中にスペインからアメリカにいる家族に会いに行った時にもありました。あまりにも高圧的にあれこれ聞かれるので、自分は有罪なんじゃないか、何かやったんじゃないかと自分を疑ってしまうほどでした。全く、そんなことはないのに」
本作がスペインで制作されたのは2023年のこと。その後、排外主義的な空気が世界中に蔓延しつつある今、各国の映画人たちが本作に注目し、絶賛していることをどう思うか尋ねると――。
「確かに、その影響で、この作品がより重みを持ってきていると感じます。今や状況は誰の目にも明らかですから。ただ、僕らからすれば、アメリカの移民政策は以前からひどかった。ある意味では、この状況になって、そのひどさが白日の下にさらされただけともいえるのです」とロハスさんは強い目線で訴え、バスケスさんも静かに続けた。
「今だから、世界中の人たちが真実味を持って見てくれる。作り手としては複雑ですが、少し前ならこんなのはフィクションだ、あるわけがないと一蹴されたに違いないんです」
2人が等しい思いと熱量で本作に取り組んできたことがうかがえる受け答えに、一体、彼らの尊厳を踏みにじる国やシステムの本意とは何だろうと思わずにいられない。
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