
今年の前半を振り返ってみると、いつにも増して「国宝」という言葉が耳目に触れた半年間であった。この記事を執筆している時点で、歌舞伎の世界を題材にした同題の映画が大ヒット上映中である。だが、ここで取り上げたいのはそちらではない。この春以降、関西地方にあるいくつかの国公立の美術館と博物館を中心に、たいへんに豪勢な展覧会が立て続けに開催された。ここでは、こちらを話題にしたいと思う。それらの企画の多くは、いくつかの展覧会タイトルに銘打たれていたように、時期を同じくして開幕した大阪・関西万国博覧会(万博)にことよせたもの。国宝の語は、これらの展覧会の惹句(じゃっく)としてもちいられた。
国宝とは何か。1897年の古社寺保存法においては「歴史の証徴又(また)は美術の模範となるべきもの」(第4条)と定められていたが、1950年に制定された文化財保護法では次のように定義しなおされた。「重要文化財のうち世界文化の見地から価値の高いもので、たぐいない国民の宝たるもの」(第27条2)。なるほど、大阪・関西万博では、「豊かな日本文化の発信のチャンス」とすることが目標のひとつに掲げられている。…
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