災害時必須だけど準備は… 徳島県が「生理上最重要」な訓練実施

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排水管の損傷有無を確認するまで水を流さないため、使用禁止の紙を貼り付ける徳島県職員=徳島市万代町1の県庁で2025年8月7日午後1時4分、植松晃一撮影 拡大
排水管の損傷有無を確認するまで水を流さないため、使用禁止の紙を貼り付ける徳島県職員=徳島市万代町1の県庁で2025年8月7日午後1時4分、植松晃一撮影

 ロシア・カムチャツカ半島付近を震源とする巨大地震で7月30、31両日に太平洋沿岸まで達した津波。炎天下に長時間の高台避難を余儀なくされた人も多く、飲料水はもちろん、テントや帽子といった猛暑をしのぐ品の必要性を感じた人もいるだろう。発災の季節や時間帯に関係なく必要なのに、準備が進んでいると言えない防災グッズもある。それは……。【植松晃一】

設営に約10分間

 7日午後1時。お昼休みが終わったばかりの徳島県庁4階で、訓練開始を知らせる館内放送が流れると、職員がA3判ほどの紙を手に現れた。「使用禁止」と赤い文字が印字されており、職員が洗面台や小便器に貼り付けていく。そう、ここはトイレなのだ。

 さらに、洋式便器には青いポリ袋をかぶせて便座を下ろし、壁には写真などで携帯トイレの使用方法を説明した紙を貼る。棚には黒いポリ袋や凝固剤の小袋、手指消毒用のアルコールが並べられた。隣の個室では、和式便器を覆うように段ボールを設置して使えないようにし、し尿を入れた黒いポリ袋を一時集積するコピー用紙の空き箱が傍らに置かれた。設営は約10分で完了したがこの間、便意をもよおしてトイレを訪れた人はいなかった。

 県は1~11階の各フロアで災害時トイレの担当課を決めており、担当課職員が発災直後に設営するとともに、開設中は定期的に巡回し、し尿を入れた袋がたまってくれば、階段を使って1階の集積場所へ移す計画だ。

下水道など確認まで使用禁止

地震など災害発生時でも使えるよう、ポリ袋がかぶせられた便器。さらに、ポリ袋をもう1枚かぶせ、用を足すことになる。壁には使用マニュアルが貼られた=徳島市万代町1の徳島県庁で2025年8月7日午後1時9分、植松晃一撮影 拡大
地震など災害発生時でも使えるよう、ポリ袋がかぶせられた便器。さらに、ポリ袋をもう1枚かぶせ、用を足すことになる。壁には使用マニュアルが貼られた=徳島市万代町1の徳島県庁で2025年8月7日午後1時9分、植松晃一撮影

 南海トラフ巨大地震が発生すると、最大震度7が想定されている徳島市中心部に建つ県庁であったのは、生理現象でもある便意への対応訓練なのだ。県庁のトイレは洗浄機能も備えた快適な水洗式だが、南海トラフ巨大地震などが発生した場合、庁舎内の排水管や下水管、処理施設に損傷がないか確認するまで、使用禁止とすることが、2017年3月策定の徳島県業務継続計画(県庁BCP)で定められている。蛇口から水が出ても、「流さない」のが原則だ。訓練開始時に、県職員が「使用禁止」の紙を次々と貼って回ったのはこのためだ。

 大災害時、県庁4階には災害対策本部も設置され、県内市町村や国との情報収集や連絡の拠点となる。当然、県庁では普段以上に県職員を含む担当者が昼夜を問わず、業務に就く。その県庁でトイレが使えなかったら……。災害対応に当たる県職員も、業務どころではない状況となる恐れがある。

目標数の86%備蓄

 こういった事態に陥らぬよう、県は18年度から災害時に使う携帯トイレの備蓄を進めてきた。ポリ袋と尿など水分を固まらせる凝固剤1袋を1回分とし、本庁舎で勤務する職員ら1800人が1日5回程度便意を催すと仮定し、3日間を乗り切るのに必要量2万7000回分を10年間で備える方針だ。

 必要量をすぐに備蓄しないのは、凝固剤のメーカーが機能を保証しているのが10年間だからだ。今年3月末時点で2万3100回分(約86%)確保しており、今年度と26年度で目標量に達する予定で、27年度からは古い分を更新する方針だ。

 だが、これまでは備蓄だけ。使ってみて、設営や運営などの課題を見つけるとともに、職員にも自分ごととして災害をイメージしてもらおうと初の運用訓練が企画された。

災害時は混雑の恐れ

災害用トイレの隣りにある和式便器を使用中止にして設けられたし尿の集積場所。用を足した利用者がポリ袋を段ボール箱内に入れ、各階の担当課職員が1階へ運ぶ=徳島市万代町1の徳島県庁で2025年8月7日午後1時10分、植松晃一撮影 拡大
災害用トイレの隣りにある和式便器を使用中止にして設けられたし尿の集積場所。用を足した利用者がポリ袋を段ボール箱内に入れ、各階の担当課職員が1階へ運ぶ=徳島市万代町1の徳島県庁で2025年8月7日午後1時10分、植松晃一撮影

 訓練でトイレを利用した職員は「トイレにはマニュアルもあるので支障ないが、ポリ袋を広げたり、凝固剤を振りかけたりといった手順なので、通常より(トイレ内にいる)時間がかかる。待たざるを得ない人が出るかも」と話していた。男女問わず、各トイレで1カ所はし尿の集積場所として運用するので、使えるトイレ個室の数は平時より減るため、混雑対策が課題となる可能性もある。

 また、訓練後に担当者や利用した職員らが課題などを話し合ったところ、トイレ内には停電時の非常灯がなく真っ暗になることから「明かりの対策が要るのではないか」といった声も上がったほか、換気扇も停止することを踏まえ、におい対策を求める意見もあった。

高知県には貯留槽

 徳島県と同様に南海トラフ巨大地震の被害が想定される四国の各県庁(本庁舎)では、愛媛県がマンホールトイレ用の設備を8基持つほか、ポータブルトイレ114基や凝固剤も備蓄して備えている。また、高知県庁は2012年度に本庁舎の耐震化を実施した際、地下に非常用の汚水貯留槽を新設した。上水道に加え、井戸水や雨水を利用する体制も整えており、排水管や下水道の無事が確認できるまでの間も、し尿などを貯留槽にためるため、平時と大きく変わらない「トイレ環境」を確保できる見通しだという。

 これに対し、香川県は本庁舎に職員向け携帯トイレの備蓄はなく、水や電気が確保できていれば、庁舎内のトイレを使用する予定だ。危機管理課の担当者は「問題の報告が上がってきたら、その時点で使用を止める」と説明している。

携帯トイレを自作するには

 発災後、自宅内の排水管や下水管などに異常がないことを確認しないままトイレを使うと、破損箇所から汚水が漏れたり吹き出したりする事態になる。携帯トイレは住宅での自宅避難などの際もあると便利だ。ホームセンターやスーパー、100円ショップなどで扱っているほか、自作することもできる。

 自宅のトイレが洋式便器で、ひび割れなどの破損がない場合、便座を上げてポリ袋をかける。このポリ袋は便器にたまっている水を遮るためだ。そして、別のポリ袋(排便袋)を便器にかぶせ、便座を下ろして使う。用をたすと、し尿に凝固剤をかけて、2重目ポリ袋の口を固く縛る。

地震などの際、小便器も排水管の無事が確認できるまで使用禁止となる=徳島市万代町1の徳島県庁で2025年8月7日午後1時4分、植松晃一撮影 拡大
地震などの際、小便器も排水管の無事が確認できるまで使用禁止となる=徳島市万代町1の徳島県庁で2025年8月7日午後1時4分、植松晃一撮影

 水を流さないため、手指消毒用のアルコール消毒液があると、安心だ。自宅便器に使えるポリ袋のサイズを確認して、凝固剤とともに多めに備蓄しておくと対応できる。

 携帯トイレの作り方を紹介しているサイトも多く、凝固剤がない場合、ペット用のトイレ砂や古新聞などで代用できるという経験者の話もある。また、夏場などにおいが気になる時期の災害も想定し、振りかけると消臭効果も期待でき、ドラッグストアなどで扱う重曹(炭酸水素ナトリウム)を準備しておく方法もある。

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