店内には冷蔵庫や段ボール箱が浮かび、水かさはみるみる増していた。線状降水帯が相次いで発生して記録的大雨に見舞われた熊本県玉名市で、浸水したスーパーマーケットで救助活動に当たった男性が毎日新聞の取材に応じ、緊迫した状況を振り返った。
防災士の資格を持つ男性(42)は、一般社団法人「山岳災害レスキュー連合会7DAYS」で山岳救助の活動に取り組んできた。10日は活動の一環で、自宅がある長崎市から熊本県を訪れ、車で1人帰る途中の午後11時過ぎ、玉名市を通りかかった。
交通整理をしていた消防団がいたため声を掛けると、近くの浸水したスーパーに取り残された人がいるとの説明を受けた。身分を明かし、救助を申し出た。
すさまじい雷雨の中、歩いて店内に入ると、行き場をなくした利用客3人と従業員1人がいた。濁った水が店内に流れ込み、商品棚の間には無数の段ボールや冷蔵庫が漂っていた。
「足を取られたらすぐに大声を出してください! まずはあの電柱に向かいます!」。店から出ると、不安そうな表情の客や従業員に大声で伝え、はぐれないよう一列になって安全な場所を目指した。「どうしたらいいか分からなかった」「誰かに促されないと避難できなかった」。救助された人はそう話したという。
男性はその後も11日朝まで、周辺の民家や車の中に取り残された人がいないか警察官らと協力して確認して回った。高さ2メートルほどの塀の上で救助を待っていた若い男性は低体温症の兆候が見られた。
男性は日ごろから山岳救助の訓練をしており、この日もヘルメットやライト、ロープなどを持参していたため救助に加わることができた。しかし、「知識や道具のない一般の人がむやみに救助活動をするのはかえって危険だ」と強調する。
そのうえで、助かった住民たちが口々に「今までは大雨でもこれほどまでじゃなかった」と話したことに触れ、「想定を超えていくのが災害だと改めて感じた」と振り返った。【平川昌範】
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