高校野球・夏の甲子園2回戦(11日)
○高川学園(山口)8―5未来富山●
主将で4番、扇の要を担う大黒柱に最高の場面が用意された。
同点の四回2死満塁。高川学園の遠矢文太がバットを握る手は、いつもよりも力がみなぎっていた。
集中力を研ぎ澄まし、未来富山の好左腕・江藤蓮の失投を逃さない。狙いを定めた真ん中付近の変化球を中越えに運び、走者一掃の3点二塁打とした。
「4番なので点を取ること、勝負強さを大事にしてきた。それが甲子園でも出た」
手応え十分に振り返った。
この打席の直前に、大雨の影響で球場入りが遅れた応援団がアルプススタンドに到着した。大音量での応援が始まり、球場全体に手拍子が響き渡る中で迎えた好機だった。
「応援が力に変わって打つことができた」
背中を押してくれた人々にも感謝の言葉を繰り返した。
二回に反撃の左越えソロ、六回の左越え適時二塁打を含め、3安打5打点。活躍の原動力には「分析強化部」の存在がある。
部員約80人のチームには来客があった際に対応する「おもてなし部」、地域の人から農業を学ぶ「農業部」など約10の部署があるという。
分析強化部の遠矢はメンバーたちと江藤の弱点を研究してきた。その結果、高校生離れした最速145キロの直球でなく、甘めに入った変化球を狙うと決めた。本塁打と殊勲の一打にその成果が表れた。
文太という名前は、父が大ファンで「仁義なき戦い」シリーズに主演した名俳優の故・菅原文太さんが由来になった。父は「どんな時もくじけず強く生きてほしい。力強い男になってほしい」との願いを込めたという。
打った時も、勝利を決めた時でさえもガッツポーズを控えて、冷静に振る舞い続けた。
「本気で戦ってくれた相手に敬意をもたないといけないので、そこは意識していた」
大舞台でも父が名に託した思いを体現し続けた。【長宗拓弥】
Comments