高校野球・夏の甲子園2回戦(11日)
○日大三(西東京)3―2豊橋中央(愛知)●
本当にやるんだ。日大三の4番・田中諒は、打席で思わず笑顔になった。
五回2死一、二塁。豊橋中央の右腕・高橋大喜地が、元プロレスラー、アントニオ猪木さん(故人)の顔まねをしていた。
愛知大会の映像を見て、高橋の気持ちが高ぶった時に自然と出る表情だと知っていたが、さすがに面食らった。2球目に投じられた伸びのある直球に差し込まれ、二飛に打ち取られた。
だが、同じ球に何度もやられないのが、「強打の三高」の中軸たるゆえんだ。
2―2の八回無死。2ボールとなり、高橋の真っすぐだけに狙いを定めた。
3球目の内角直球に対し、巧みに腕をたたんで引っ張った。「詰まり気味」と振り返った打球は楽々と左翼席へ。「もっと早く、走者がいる段階で打てればよかった」。喜びだけでなく、反省もしながらダイヤモンドを一周した。
2年生の大型スラッガー。昨秋から4番を任されている。重圧と闘いながら、人一倍バットを振ってきた。
意識するのは当てるのではなく、「しっかりと振り切ること」。その成果を大舞台で披露した。
打撃のチームとして名高い日大三。昨春から低反発の新基準バットが本格導入されたが、その看板が揺らぐことはない。
部長を経て、2023年春に引き継いだ三木有造監督は「芯に当たれば飛距離はそんなに変わらない」と指摘し、力負けしないよう、体の回転で球を捉えるスイングを指導してきた。
いつの時代も変わらない「強打」に憧れて、スラッガーの卵たちは日大三の門をたたく。田中もその一人だ。
ぶれずに自分たちの道を貫いてきたからこそ、チームは夏30勝の節目に到達できた。【石川裕士】
Comments