
少子高齢化や人口減少が進むなか、政府は経済成長のエンジンとして、スタートアップ(新興企業)の育成を掲げる。だが2022年に打ち出された、政府の5カ年計画で打ち立てた目標の達成は困難な状況だ。なぜ、国内で国際的なスタートアップは育たないのか。4月に東京に次いでアジア2カ所目となる拠点として福岡市に開設された、米国の世界最大級のスタートアップ支援企業の現場を取材し見えてきたものとは。
共有スペースの雑談がビジネスに
「人工知能(AI)を使用した学習教材は、動画教材よりも費用対効果が高い。ゲームで遊んでいるように学べます」
6月5日に米スタートアップ支援企業「CIC(ケンブリッジ・イノベーション・センター)」であった開業記念イベント。CICが提供するシェアオフィスに入居する、生成AIを活用した学習支援サービスの開発を行う「エレタス」の園田雅敏社長(23)が英語でプレゼンテーションを始めると、ベンチャーキャピタルや行政などの関係者数十人が熱心に耳を傾けた。
CICは米マサチューセッツ州ケンブリッジ市で1999年に設立された。米国5カ所、欧州3カ所、日本2カ所にある拠点では、審査を経て入居が決まったさまざまな業種の起業家らが集まる。CICによると、これまで1万社以上を支援し、これら企業へのベンチャーキャピタルからの投資総額は約400億ドル(約6兆円)に上る。
福岡拠点は4月にオープンした近代的なビルの1フロアにある。福岡市など行政の支援が手厚く、地域で多くのスタートアップが生まれている実績を買われ、設置が決まった。韓国や台湾系も含めたスタートアップのほかにも、行政機関や大企業、地元の大学やベンチャーキャピタルなども含めて計約40機関が入る。
冒頭のプレゼンは、CICの支援プログラムの一環だ。入居企業が進めている事業について、投資家の目に触れる機会を増やすとともに、入居するほかの企業や大学などと連携する「オープンイノベーション」のきっかけを提供することを目的としている。
実際、ちょっとした縁がビジネスにつながる。園田さんが入居した初日、…
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