「きっと父ちゃんが守ってくれたんだと思います」。熊本県などを襲った記録的大雨で、土砂崩れに巻き込まれて亡くなった同県甲佐町の増田佳明さん(57)の妻安理沙(ありさ)さん(33)が13日、報道陣の取材に応じた。最期まで妻と2人の子どもを気にかけたその優しさを思い、安理沙さんは涙を拭った。
11日未明、異常な雨量に増田さん宅付近はみるみる浸水。「車が使えなくなる前に」と、佳明さんは家業の塗装業で使う車を裏山側へ避難させた。安理沙さんも長女(4)、長男(1)と別の車に乗り避難しようとしたが、自宅前の道は既に水が深く、3人が乗る車も裏山側へ退避せざるを得なかった。
その直後だった。裏山が崩れ、一家は土砂崩れに巻き込まれた。車内にいた安理沙さんら3人は後に救助されたが、車外の佳明さんは帰らぬ人となった。
佳明さんは10日夜から一睡もせず、家族のために雨の状況を警戒していた。土砂崩れの際も家族の退避を見届け、周りの水の状況や仕事道具の散乱がないかを確認していたとみられる。安理沙さんは「最期まで家族を守ってくれた」と話した。
佳明さんは職人気質で建築塗装の仕事を愛し、子どもたちの成長を一番の楽しみにしていた。塗装業の仕事は、佳明さんの教え子でもある安理沙さんが継ぐつもりだ。「父ちゃんから受け継いだ財産を、見せていきたい」。まだ小さな子どもたちに父の記憶をつなぐ。【中村敦茂】
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