
第二次世界大戦をテーマとする全国の戦争博物館・平和記念館85施設に毎日新聞が戦争の記憶の継承についてアンケートしたところ、回答した70施設の9割が「困難」(「大いに困難」含む)と答えた。
継承活動への人工知能(AI)技術の活用については「取り入れている」が5施設にとどまり、7割が「検討していない」と回答。戦後80年を迎え、戦争体験者の減少とともに継承が難しくなる一方、多くの施設がAI活用に懸念や不安を抱いている。
毎日新聞は7月、国際平和博物館会議・組織委員会発行の資料集「世界の平和のための博物館」(2020年)に掲載されるなどした85施設にアンケートを送付し、70施設から書面で回答を得た。
※同時公開の関連記事あります。
AIによる証言は心に響くのか 戦争体験者ゼロ時代に向けた模索
特攻隊員が笑み浮かべるAI動画 元隊員が見たら…「いや、鬼の顔に」(文末に動画あり)
アンケートの主な回答内容はこちら
「戦争の記憶の継承に困難はあるか」との質問に四つの選択肢を示したところ「大いに困難」7▽「困難」56▽「困難はない」6▽「全く困難はない」0――だった。困難の理由の多くは「戦争体験者が少なくなっている」ためで今後継続する予算がないとした施設も数カ所あった。
堺市立平和と人権資料館は「高齢や死去で語り部ボランティアが1人となっており、継承が困難な状況」と回答。他の施設からは「学校現場において平和教育がカリキュラム化されておらず教員任せになっている」「来場者は60代以上が多く若い世代への継承が課題だ」などと若者の関心の低下を危惧する声もあった。

AI活用については「取り入れているか、検討しているか」を三つの選択肢を示して尋ねた。その結果、「既に取り入れている」5▽「取り入れていないが検討している」10▽「取り入れていないし検討もしていない」49――だった。
検討していない場合の理由については「体験者本人の思いから遊離する」「AIのカラー化・動画化によってイメージが固定化される」「制作者の思想や意向に影響される」といった懸念が寄せられた。
AIを取り入れたり検討したりしている施設には具体的な内容も聞いた。
川崎市平和館は「戦争や空襲の傷痕と記憶をよりリアルなものとして感じてもらい、特に若い世代に自分の事として戦争と平和を考える機会を提供したい」と戦災写真9枚をカラー化した。
広島平和記念資料館は、質問に応じて事前に撮影した被爆者の証言映像からAIが適切な答えを選んで再生する「被爆証言応答装置」の導入を検討している。
アンネ・フランク資料館(兵庫県西宮市)も検討中としつつ「効果的な分野ではあるが、過剰な演出、加工を防ぐため、適切なガイドラインの策定と検証が必要だ」と注意点を挙げた。
ネット上にはAIを活用して戦中の写真に色や動きを付けた動画が見られる。
筑波海軍航空隊記念館(茨城県)は「実在する人物をAIで動かすのはあまり良いとは思えないが、人物自体もAIで作成したものであればイメージが伝わりやすく良いと感じる」との見解を寄せた。【加藤昌平】
Comments