
茶道裏千家前家元の千玄室さんは、茶道にとどまらず、日本の文化全般に多大な影響を与えた巨星だった。同時に、第二次大戦で徴兵され、旧海軍の特別攻撃隊の一員として死と背中合わせの日々を送った経験から、茶の精神を通して争いのない世の中を実現しようと、最期まで世界を駆け巡った。
千さんが90代半ばを迎えた頃から、取材を重ねた。「どうして特攻隊の仲間は無駄に命を捨てさせられたのか。なんであんな戦争をしてしまったのか」。千さんはいつも、誰に対しても戦争への憎しみを強い口調で語った。飛び立つ特攻隊の仲間を何人も見送った。「国のために命を捨てた仲間など一人もいない。自分が犠牲になることで愛する家族が守れるならという思いで命をささげたんだ」
同じ気持ちだった千さんも出撃を覚悟していたが、「待機」の命令がかかる。出撃を3回進言したが、命令は下りず、終戦を迎えた。
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