
Netflixアニメーション映画「KPOPガールズ!デーモン・ハンターズ」は、世界的に大人気のK-POPガールズグループ「HUNTR/X(ハントリックス)」が、歌の力で悪魔退治をするバトルアクションミュージカルだ。
2025年6月20日の配信開始翌日に世界デーリーランキングで1位になり、7月2日まで首位をキープし、いったん4位まで下げてから、同20日に首位の座に返り咲き。公式発表ではないが、Netflix史上最も視聴されたアニメーションになる見込みとのことで、通称「ケデハン」旋風はまだまだ続きそうだ。

劇中使用の楽曲がヒットの要因
このV字回復ヒットの大きな要因は、劇中で使われている楽曲だろう。ハントリックスや、ライバルの5人組ボーイズグループ「Saja Boys(サジャ・ボーイズ)」らが劇中で歌うK-POPナンバー(歌詞は英語)が、振り付けも含めて素晴らしいクオリティーなのだ。
特にハントリックスの「GOLDEN」は、「アナと雪の女王」(2014年)の「レット・イット・ゴー」に並ぶ強度のある名曲で、アメリカのビルボードチャート、Spotifyのグローバルチャートで1位を獲得している。
この曲を、IVEのユジン、ATEEZのジョンホ、MAMAMOOのソラといった、ハイトーンに強いK-POPアイドル/アーティストたちがこぞってカバーし、その映像がSNS(交流サイト)で拡散されている(筆者の脳内では、松たか子がカバーする姿が再生済み)。
エンディング曲は、劇中でハントリックスが歌う「TAKE DOWN」を、TWICEのジョンヨン、ジヒョ、チェヨンが歌うバージョンだ。これらの楽曲から映画にアクセスした層が、V字回復を支えていると推察できる。

「韓国文化」×「悪鬼を倒す女性たち」
監督のマギー・カンはソウル生まれ。カナダ・トロントにわたり、北米と韓国両方の文化を浴びて育ったという。カレッジでクラシックアニメーションを学び、ストーリーアーティスト(脚本をストーリーボード化する業務)としてキャリアをスタートする。
ドリームワークス・アニメーションやワーナー・アニメーション・グループ(「レゴ ニンジャゴー ザ・ムービー」のストーリー部門責任者)を経て、本作を製作したソニー・ピクチャーズ・アニメーションへ移籍。自身のアイデアを脚本にし、監督デビューを果たした作品が「K-POPガールズ!デーモン・ハンターズ」だ。
K-POPありきの企画かと思ったら、そうではないらしい。監督はとあるインタビューで、「韓国文化を描く作品を作りたい」→「悪鬼のイメージを思いつく」→「それを女性デーモンハンターが倒す」という流れで、デーモンハンターたちの仮の姿として、K-POPアイドルを思いついたと語っている。

魔王役でイ・ビョンホンも
韓国には古代から、悪鬼を駆逐する巫女(みこ)のような女性3人組がいて、現在はハントリックスの3人がその役割を継承しているという世界設定だ。彼女たちの歌が作る「ホンムーン(結界)」が悪魔たちを封印し、ホンムーンが黄金になれば、悪魔たちは完全に消滅する。
ホンムーンの原動力はハントリックスのファンにあるため、魔王グウィマ(イ・ビョンホン)はサジャ・ボーイズを人間界に送り込み、ファンを奪うことでホンムーンの弱体化を狙う。
一方のハントリックスは新曲「GOLDEN」をリリースし、ファンの前でお披露目することで、ゴールデンホンムーンを完成させようとしていたが……。

ガールズエンパワーメントを軸に
デーモンハンターのルミ、ミラ、ゾーイが悪を成敗し、彼女たちの友情も描かれる本作の軸はガールズエンパワーメントムービーだ。
痛快アクションミュージカルとして楽しめる一方で、主人公のルミが仲間にも言えない秘密を背負っていることで、メッセージ性も備えた作品になっている。デーモンの父親とデーモンハンターの母親の間に生まれたルミは、彼女の不安や恐れ、仲間に本当のことを言えない後ろめたさがほころびとなり、魔王グウィマにつけ込まれてしまうのだ。
彼女と、サジャ・ボーイズを率いるジヌとの、ロマンスよりも深い部分での魂のエンカウントが迎えるクライマックスに、涙腺決壊……! 自分のルーツに苦しむルミと、過去の悪行の記憶を消したいジヌがたどり着いた答えは、視聴者おのおのが闇にのみ込まれそうになったときの道標になるはずだ。映画のメッセージとリンクした「GOLDEN」を聴くたびに、この映画体験がよみがえるはずだ。

ダイナミックなアクションシーンも魅力
特筆すべきは、ハントリックスの3人が悪魔たちと戦うアクションシーンだ。画面の中を360度、自由自在に動き回るダイナミックなCG(コンピューターグラフィックス)アニメーションがとにかく気持ちいい!
また、リアルなK-POPアイドルのグループ名や楽曲は覚えられても、メンバーの顔と名前の識別に挫折する筆者ですら、この映画のキャラクターはアニメーションならではのデフォルメが利いていて、識別にストレスなし。そして、ライブに集うファンたちの多様性も、背中を押してくれるものがある。いやはや、細かい長所を挙げていたらキリがない。(須永貴子)
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