(築地書館・2640円)
原料調達者が世界巡り得た出会い
1987年のLVMH設立の頃を端緒として「ラグジュアリー」という言葉がビジネスの中で頻繁に使われるようになった。ある種の幻想に立脚した、非合理で特権的な価値を象徴する商品は、香水ではないかと考えたことがある。ボトルに詰めた液体として販売はされるものの、香り自体は目で見ることも、手に触れることも、舌で味わうことも叶(かな)わず、言葉に表すことも難しい。雲を摑(つか)むような、煙に巻かれるような存在は、ラグジュアリーな価値そのものではないか。
しかし持続可能性やトレーサビリティ、フェアトレード、といった新しい価値がより重視されるようになるにつれ、ラグジュアリーの本丸である香水の世界にも変化の波が押し寄せている。本書の著者ドミニーク・ロークは、森林管理を学んだ後、世界第2位の香料メーカーの原料調達担当者として、30年以上にわたって香りの生産地を巡ってきた。
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