磯田道史・評 『図説 豊臣秀長』=河内将芳・著

Date: Category:カルチャー Views:2 Comment:0

 (戎光祥出版・2200円)

信長の「長」を尻に 「奈良借」の弟

 来年のNHK大河ドラマは「豊臣兄弟!」である。豊臣秀吉・秀長兄弟の物語だ。こんな相談がきた。「秀吉はともかく弟の秀長は皆目知らない。小説ではなく、秀長について書かれたわかりやすい歴史の本はありますか?」。図が多く、わかりやすい。この一点で選ぶとすれば、本書である。戎光祥(えびすこうしょう)出版の図説の戦国武将シリーズは専門研究者の本ながら難解ではなく、全般によくできている。本書もそうで河内将芳氏が「秀吉政権を支えた天下の柱石」豊臣秀長の生涯を歴史学者の視点から簡潔かつ正確にまとめている。豊臣兄弟については、一九三九年出版の渡辺世祐(よすけ)『豊太閤の私的生活』がある。九十年近く前の本だが、魅力的な名著で、これが現在の秀長イメージに強く影響している。秀吉の補佐役で、温厚で常識的な秀長が豊臣政権を支えていたとの評価を固定したのは渡辺のこの書だ。

 しかし、21世紀に入り、名古屋市博物館編『豊臣秀吉文書集』が出た。秀吉が発給した書状類など一次史料は七千点ほどあるが、これが活字化されて一つにまとめられた。同様の作業は織田信長、徳川家康については既に行われていたが、豊臣秀吉は近年までなされていなかった。豊臣家について基礎資料の整理がなされると、秀長研究も進んだ。最近の研究成果は柴裕之編著『豊臣秀長』という論文集になっており、秀長の学術的で精密な…

Comments

I want to comment

◎Welcome to participate in the discussion, please express your views and exchange your opinions here.