
(講談社学術文庫・1331円)
「名物にうまいものなし」。名は必ずしも実を伴わないことの例えだが、名物がまずいということではなく、包装や盛り付けで土地の特徴を前面に出そうとして、味は無難なレベルにとどまるという意味だ。
こうした長年の誤解を解いてくれた著者は、近世・近代・現代の流れと、日本各地の事情を組み合わせて「お土産」の全景を披露する。
近世の徒歩の旅では、食品のお土産が少なく、非食品の記念品などが主流だったが、明治以降の鉄道開通、昭和の高速道路建設などで、旅人の移動時間が徐々に縮まり、食材の変更や包装の工夫で保存性を高めた食品がお土産の主流になった。京都・嵐山の桜餅、伊勢の赤福、仙台の萩の月、東京ばな奈……。著者は600を超える注で引用元を明らかにしつつ、お土産の「研究論文」を書き進めている。
Comments