夏休みまっただ中だ。子どもたちの宿題の定番といえば「読書感想文」。しかし、家庭任せの学校も多く、保護者や子どもの頭を悩ませる存在だ。
<無理に読ませると本が嫌いになる>
<結局は親が書く羽目になる>
インターネット上では「読書感想文不要論」なる議論も度々起き、近年は任意提出の学校も増えている。
しかし、本当に子どもにとって「不要」なのだろうか。この時代、読書感想文を書く意義は? 専門家に聞いた。
きっかけはコロナ禍
東京都内のある小学校では、地域の児童の読書感想文の中から選んでいた作文集の制作が新型コロナ禍で休止したのをきっかけに、任意の宿題になった。
コロナ後もプログラミングや外国語教育など新しい指導要領に沿った対応で、感想文の指導の時間は十分に取れず、サポートの時間が取りにくい共働き世帯などへの配慮もあるという。
ある男性教員は「授業ではプレゼンテーションの発表資料を作ったり、感想や意見を書かせたりと、書く機会はなるべく増やすようにしている」と説明する。
小学生から高校生までを対象に、70回以上の歴史を持つ「青少年読書感想文全国コンクール」の応募数も減少傾向だ。
2018年の応募数は400万台だったが、コロナ禍を境に20年には約200万に半減。その後やや持ち直したものの、24年は230万ほどになっている。
「任意提出」の割合は?
オンライン書店「楽天ブックス」が6月、全国の小学生の保護者1348人を対象にした調査で、「夏休みに読書感想文の宿題が出るか」を尋ねたところ、「毎年出る」と回答したのは4割だったが「ほとんど出ない」「出ない」と答えたのも4割近くとほぼ並んでいた。
さらに、「自分の子どもの頃と比べて読書感想文事情が変わったか」を尋ねた項目では、約45%が「とても変わった」「少し変わった」と回答した。
具体的には「出題の頻度が減った」(52・6%)、「本選びの自由度が上がった」(28・6%)が多く、「インターネットで本の選び方や文章の書き方が調べられる」「AI(人工知能)の活用ができる」といった自由記述も見られた。
一方、「自分の子どもが読書感想文を書くのが得意か」を尋ねた項目では「苦手」「とても苦手」との回答が6割に達した。「読書感想文をどの程度手伝うか」という質問には、半数以上が「かなり手伝う」「少し手伝う」と回答し、親の負担の大きさもうかがえた。
読書感想文の効果とは
専門家は現状をどう見るのか?
国語教育を研究する東京学芸大の中村和弘教授は、読書感想文を任意とする学校が増えている背景には、教員の働き方改革に加えて、タブレット端末が普及し課題の選択肢が広がったことがあるとみる。
しかし、読書感想文の意義をこう強調する。
「相対的に課題としての割合が減っただけ。読書感想文を書くことにはさまざまな効果があります」
課題図書などで普段は手に取らないような本を読む機会になり、興味や関心の幅が広がる。
感想を文章にするためには何度も読み返したりしながら「何が面白いのか」を探る必要がある。単にストーリーを追うだけの読書とは違う読み方ができる。
他の読者が書いた感想文を読めば、一人で読むのとは異なる読書体験にもなる。
「他の学びとは代替できない」
最近の小学校では、探究学習や発表などの授業も増え、子どもが分かりやすく伝えたり、児童同士で意見や感想を言い合ったりする機会も増えた。
しかし中村教授は、読書感想文はこういった学びでは代替できないと指摘する。
読書感想文が対象とする本の文章は、情報量が多い上に、複雑で抽象度も高い。それを、かみ砕きながら、自分の中に立ち上がったイメージを言語化していく複合的な思考が必要になる。
また、読書感想文は交流サイト(SNS)などとは別次元の言葉の使い方を求められるという。少ない字数で気軽に発信するSNSでは、感情的だったり瞬間的に反応したりするやり取りになりがちだ。
「本を読み、感想を書く。アウトプットとインプットの両面で、丁寧に『言葉』を自分の中で行き来させる作業が読書感想文です」
「厄介な存在」にしないために
一方、中村教授は「読書感想文を宿題として課す場合、学校側が事前指導することも必要だ」と指摘する。
子どもが読書感想文の基本的な書き方、「何をどういう手順で書けばいいのか」を学ぶ機会が得られないまま、家庭に丸投げすると、結局は「厄介な存在」として敬遠されることになる。
特に近年は生成AIで着想や書き方のヒントを得ることができる一方、盗用にならない使い方を学ぶ必要もある。AIをどう利用すべきか、うまく指導できる教員は少ないのが実情だ。
中村教授はコンクールへの応募にこだわらなければ、もっと自由な書き方でもいいと提案する。
例えば、好きな本の著者の作品を読み比べたブックリポートにしたり、学校で習った文学の読み方を取り入れた作文にしてみたりする――などだ。
「視野を広げ、多様なアプトプットを検討すれば、本を読むというインプットの新たな楽しさに気づくこともあるでしょう」【稲垣衆史】
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