東洋大姫路(兵庫)の4番打者に打順が回ると、阪神ファンに親しまれた疾走感あるメロディーと歌詞が、甲子園の夏空に響き渡る。
阪神一筋で20年以上もプレーし、「代打の神様」を代名詞に活躍した桧山進次郎さん(56)の応援歌だ。
全国高校野球選手権大会。アルプスの大応援を背に、左打席に立つ選手の名は、白鳥翔哉真(ひやま、3年)。夢に見た光景に立ち会い、名付け親の父・一馬さん(49)の胸は熱くなる。
兄は家族の反対で断念
「どこにでもいる阪神ファンですよ」。一馬さんは自身のことを評し、笑った。
いつからなのかも、何がきっかけだったのかも、はっきり覚えていない。ただ、桧山さんの左中間を破る打球が格好良くて、応援した。
大学で野球を続けている3歳上の兄が生まれた時、「ひやま」の名前を候補の一つにした。だが、家族の反対で断念した。
その後、弟の白鳥選手が誕生した。一馬さんはもう一度提案し、画数も考慮して「翔哉真」と名付けた。
野球をすることを押しつけたことはない。それでも阪神戦を一緒に観戦していると、白鳥選手は1歳で「六甲おろし」を口ずさんでいた。自然と野球にのめり込み、一馬さんも全力でサポートした。
理想の打撃を2人で追い求め、今は左中間への鋭い打球が、白鳥選手の好調を示す指標になっている。2回戦の花巻東(岩手)戦は、左中間への打球を含む3安打4打点の大活躍だった。
試合後、白鳥選手は「応援を聞いてゾッとするような、すごい興奮を感じながら、楽しめました」と心地よく汗を拭った。
小学生の頃から、冗談半分で2人で話した「桧山の応援歌を背に、甲子園で打席に立つ」景色は、現実のものになった。
大好きな甲子園で、大好きな桧山さんの応援歌が流れ、大好きな息子が活躍している。
「この気持ちは、私にしか味わえませんよね」
一馬さんは幸せをかみ締めながら、最高の夏を過ごしている。【川村咲平】
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