自分とはまったくタイプの違う役に共感したこととは?

「仕事でもプライベートでも干渉されるの、本当に苦手なんです(笑)」
そう笑うのは、俳優の中村アン(37)だ。明るくて人当たりのいい彼女がこんな言葉を口にすると、少し意外な印象を受ける。
「気を遣われすぎると疲れちゃう。『大丈夫?』『どう思う?』とかそういうやりとりが続くと、しんどくなっちゃって……」
そんな彼女が今向き合っているのは、自身とはまったくタイプの異なる女性だった。7月放送開始のドラマ『こんばんは、朝山家です。』(テレビ朝日系)は、中村演じる″キレる妻″と小澤征悦(51)演じる″残念な夫″の一家奮闘ホームドラマ。中村は脚本家の夫が所属する事務所の敏腕社長・朝山朝子を演じている。
「朝子は、夫・賢太の″映画監督デビュー″を後押しするため、自ら会社を立ち上げるような女性。行動力があって、タフで、すごく尊敬します。でも、自分にそこまでのパワーがあるかというと、私はもう少し控えめなタイプかも(笑)」
高校時代はチアリーディング部のキャプテンで、″自分が言わなきゃ″という意識が強かったそうだが、「今は″引きの姿勢″が増えた」と振り返る。
「現場ではまず何事も受け止めます。″あっ、なるほど、そう来たか″って一歩引くこともあり、監督の指示やセリフの言い回しに疑問を持っても、一度やってみるようにしています。それでも違うと思ったら伝えますね」
朝子と向き合ううちにその真っ直ぐさに自然と惹(ひ)かれ、どこか共鳴するものがあった。
「最初、朝子は自分と全然違うタイプだと思っていたんです。でも、演じているうちに、″あれ? なんかわかるかも″って思う瞬間が増えていきました。
私、弟と妹がいて自然と支える側に回ることが多かったので、朝子の家族への真っ直ぐな愛情にすごく共感できました。うまく言葉にできなかったり、相手に伝わってないと感じるときのモヤモヤは、私にもすごくあります。私の場合は伝えることを諦(あきら)めちゃいますけどね」
35歳で感じた変化
自分とは違う性格だと思っていた役が、ふとした瞬間にじわりと重なる。″共感″が増えてきたのは、自分の心に少しずつ変化があったからかもしれない。
「今まではまったく結婚に興味がなかったんですよ。一人が気楽だったし、まずは仕事をちゃんとやりきりたいって気持ちのほうが強かった。結婚はその後かなって漠然と考えていました。でも、ここ2年くらいで、一人でいる強さも大事だけど、ちょっとくらい″分かち合える余白″があってもいいのかなって」
″理想の関係″については、こう語る。
「友達みたいな関係がいいですね。お互い自立していて、でもちゃんと向き合える。距離が近すぎると、相手の目線を気にしすぎてしんどくなっちゃうんです。ほら、私は干渉されたり、依存されたりするのがダメなので(笑)」
エゴサーチ好きでプライド高め、質問ばかりしてくる賢太(※夫役)は――と聞くと、中村は思わず吹き出した。
「ないですね。ない!(笑)。1〜2話くらいのときはかわいいなって思っていたけど、これがずっと続くと思うと、ちょっと……。質問多いな〜って(笑)。私は、もっと″ドン!″と構えてて、男らしい人が好き。適度な距離感もほしいかな」
そんなしっかりした男性に惹かれる一方で、自分自身の理想像は持っていない。
「″こうあるべき″っていうのが苦手なんです。その時々の自分に集中して、やるべきことを積み重ねていけたらそれで十分。先のことよりも、″今″のほうが大事」
中村は大学卒業後、モデルとして芸能活動を開始。’15年には本格的に俳優業へと進出して今年で10年を迎えた。『グランメゾン東京』や『DCU〜手錠を持ったダイバー〜』(ともにTBS系)で好演し、人気女優の地位を確立した。
「10年……けっして短くはなかったですね。誰も知らない20代のただの女の子が、この世界で居場所を作るにはとにかく挑戦の連続でした。一番しんどかったのは、25〜27歳くらい。バラエティに出始めた時期で、話すことが苦手だったから精神的にもきつかったです。″このまま続けていけるのかな″って、思ったこともありました」
明確な目標よりも、流れに身を委(ゆだ)ねたことが、結果的に続ける力になった。そして今、その10年を経た彼女が大切にしているのは、″ちゃんとしなきゃ″に縛られすぎないこと。
「このドラマで実直なのに怒りっぽい女性を演じることで、逆に″もっと自由でいいのかも″って思えるようになったんです。ちゃんとすることも大事だけど、それにとらわれすぎると、しんどくなっちゃうから。イライラして怒ったりするのも同じ。イライラしている自分が嫌になるし、そのエネルギーを使うことでどんどん性格が悪くなっていってるんじゃないかって損してる気がするから」
自分の居場所を必死に探してきた20代を経て、今はもう少し肩の力を抜いて日々を過ごしている。
「女優としての強みですか? うーん、なんだろう。……″諦めないこと″ですかね(笑)。とにかく芝居を始めてから、今が一番楽しいです!」
背伸びをやめて自由を受け入れた彼女は今、純粋に演じることを愉しんでいた。



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