アフガニスタンの女性や子どもらを30年以上にわたり支援してきた兵庫県宝塚市の西垣敬子さん(90)が5月、9年ぶりに現地を訪問した。タリバン政権によって活動が制限され、生活に困窮する女性画家らが描いた伝統的な細密画を託されて、帰国。22日に同市南口2の市立国際・文化センターで始まった展覧会で販売、現地の女性らに送金する。
西垣さんは1994年、市民団体「宝塚・アフガニスタン友好協会」を設立。東京で開かれた写真展で当時、内戦中だったアフガンの人々の姿に衝撃を受けたからで、毎年のように現地を訪問。女子寮建設や爆撃で足を失った子どもに義足を贈るなどの支援をしてきた。
2004年ごろ、アフガンの路上で少年が描いていた細密画に魅せられる。色鮮やかな顔料を使い、緻密に描く技法で、西部ヘラート州の伝統芸術だ。西垣さんは、ヘラート大細密画学科の教員や学生らと交流を重ね、経済面でも支えた。
だが、アフガンの治安は悪化する一方で、西垣さんは17年から渡航をあきらめた。それでも「日本に居ながら支援はできる」と、細密画を現地から国際郵便で送ってもらい、展覧会を開催。作品を販売して送金した。
21年8月には、イスラム主義勢力タリバンが復権。中学生以上の女性の教育や就労、権利を次々に制限した。アフガンの友人からは窮状を訴えるメッセージが届いた。タリバンに絶望した細密画家の第一人者は出国した。
「アフガンは第2の故郷」と心を寄せる西垣さんの思いは募り、「今回が最後」と5月、渡航に踏み切った。
9年ぶりのヘラートの街は一見、平穏そうだったが、どこにも女性の姿はなかった。女性が移動する際には、近親男性の「保護者」に同伴してもらわなければならない。女性たちはタリバンを恐れ、家にこもっていた。
滞在中、ヘラート大で細密画を学んで卒業した女性4人が、自分たちの作品を持って西垣さんの宿泊先の同大学教員宅を訪ねてきた。もう1人参加する予定だったが、夫から外出を許されず、友人に作品を預けた。女性たちは、西垣さんが細密画を売った代金を生活の糧にしていた。
集まった作品は、女性5人が1人5点ずつとヘラート大教員の10点の計35点。金箔(きんぱく)彩飾(さいしょく)の手法を用いた草花の装飾文様や宮廷生活の情景などが描かれている。
どの女性も、仕事に就けず生活に困窮していると訴え、展覧会に向けたメッセージを西垣さんに寄せた。ある女性はペルシャ語でこう書いた。
<私たちヘラートの女の子たちは世界で最も希望のない女の子たちです。もしかしたら私たちは「動く死人」なのかもしれない>
西垣さんは「彼女たちは細密画が売れて、送金されるのをひたすら待っています。多くの人にアフガンの素晴らしい伝統芸術を知ってほしい」と話す。
「古都ヘラートの美Ⅲ アフガニスタンの細密画」と題する展覧会は、22日~26日午前10時15分~午後6時(26日は午後2時)。入場無料。作品の販売価格は1点1万~3万円。問い合わせは宝塚市国際交流協会(0797・76・5917)。【桜井由紀治】
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