
6万人以上が殺され、190万人もが家を追われる。未曽有の惨状は、その土地で築かれた食文化も失われることを意味する。消えゆく郷土料理を記録した「ガザ・キッチン パレスチナ料理をめぐる旅」が今夏出版された。食からガザを知り、残酷な現実に目を向けて――。切なる願いが込められている。
続く空爆 深刻化する食料不足
イスラエル軍の絶え間ない空爆で人道危機が続くパレスチナ自治区ガザ地区。住宅や農地の破壊に加え、支援物資の搬入制限で食料不足が深刻化している。「飢餓を軍事利用するのは戦争犯罪だ」。国際社会からの非難をよそに、栄養失調による餓死の急増も伝えられている。
「ジェノサイド(大量虐殺)でガザの生活が消し去られようとしています。でも、具体的にどんな生活が消えるのか、殺される人々が日々何を食べていたのかすら知らないことがショックでした。これこそ自分が学ぶべき本だと、翻訳を決めました」。翻訳を監修した東京大准教授の藤井光さん(45)=現代英語圏文学=が出版の動機を話す。
150種の家庭料理を紹介
原著の初版は米国で2013年に刊行された。ガザ出身の両親を持つ著者らが現地を取材し、家庭料理約150種の調理方法を丁寧に紹介している。日本語版はレシピ本を多く手がける出版社オレンジページが引き受けた。338ページ、税込み4950円で美術書のような体裁だ。
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