自宅ではのんびり、マウンドではキリリ。そんなギャップも魅力かもしれない。
全国高校野球選手権大会で初優勝した沖縄尚学で、躍進を支えたのが背番号「10」の本格派右腕・新垣有絃(ゆいと)投手(2年)だ。周囲は「マイペース」と口をそろえる。母に聞いた、その素顔は――。
新垣投手は日大三(西東京)との23日の決勝で先発を任された。立ち上がりに1点を失ったが、その後は140キロ台の直球と鋭いスライダーを軸に、「強打」を看板とする相手打線を抑えた。
八回途中1失点。リードした展開で、同学年のエース左腕・末吉良丞(りょうすけ)投手にバトンをつなぎ、優勝に大きく貢献した。比嘉公也監督も勝因として名前を挙げるナイスピッチングだった。
4人きょうだいの次男
「いつも家では、ぼーっとしていることが多くて……」
そうほほ笑むのは母の由紀子さんだ。新垣投手は4人きょうだいの次男。長男は決勝で「5番・一塁」で出場した瑞稀選手(3年)で、2人の妹がいる。
どちらかというと、兄はしっかり者で、新垣投手はマイペースという。
「家ではあまりしゃべらないですね」と由紀子さんは話す。それでも、妹が赤ちゃんの時は兄2人でミルクをあげたり、添い寝をしたりしていたという。おとなしい性格で口数も多くないが、内に秘めた優しさがある。
瑞稀選手とともに、那覇市の南東にある八重瀬町の自宅から通学する新垣投手。今春の選抜大会では優勝した横浜(神奈川)との2回戦で先発したが、1回3失点で降板し、チームも敗れた。
それが悔しかったのだろう。自宅での自主練習にもいっそう力がこもった。由紀子さんは「野球に取り組む姿勢が変わりましたね」とみる。
迎えた夏。新垣投手は大きく飛躍した。甲子園では3先発を含む4試合で登板し、末吉投手との「ダブルエース」に成長した。
ダルビッシュのような…
瑞稀選手は「選抜以降、自分で練習を頑張っていた。いつもは心配だけど、この何試合かは安心して守れた」。チームは末吉頼みから脱却し、頂点へと駆け上がった。
由紀子さんはダルビッシュ有投手(米パドレス)にあやかり、「有絃」という名前を付けたという。
「ダルビッシュさんのようなイケメンになってほしくて……」と母ははにかむが、好投を重ねるうちに、キリリとした表情も自然と話題になった。
「家での姿を見ているからか、マウンドに立つと、より格好よく見えますね」。そう言って由紀子さんは目を細めた。
家族でつかんだ全国制覇。この夏、孝行息子は母が願った通りの存在になった。【石川裕士】
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