伝統、多様性…よりよい環境探る
県立高校の共学化を巡り、埼玉県教育委員会の意見交換会が23日で全日程を終えた。参加者からは共学化反対の意見が相次いだ一方で、県教委は「性別に関係なく、生徒一人一人が力を伸ばせる学びの環境が大切だ」と説明した。共学化を求める県男女共同参画苦情処理委員会の勧告に対し、県教委が「主体的に共学化を推進していく」との報告をまとめてから1年がたつが、いまだ具体案や時期は示されていない。共学化を巡る論点を整理する。
意見交換会は高校生、中学生、保護者、一般県民を対象に7~8月、県内4会場で9回開かれ、計91人が参加した。さいたま市浦和区で8月6日に開かれた高校生の部では、男子校の生徒が「(現役中高生らが対象の)アンケートでは共学化反対が多かったにもかかわらず、反映されていない」と批判し、議論のやり直しを求めた。女子校の生徒は「別学校は異性がいないからこそ自分らしさを伸ばすことができる」と別学のメリットを強調した。
同23日にさいたま市浦和区であった一般県民の部に参加した女性は「ジェンダー平等は重要であり、子どもたちの権利も大切。男子校、女子校、共学校も選べる埼玉県の現状は素晴らしい」と話し、拙速な共学化は反対との考えを示した。一方、男子校出身の男性は「共学化して女子が入学したとしても、行事などを工夫して変えればいい。男子校のすばらしい伝統は共学化しても変わらない」と述べた。
県教委は意見交換会で「男子校、女子校、共学校にはそれぞれ良い点と課題点がある」とした上で、「県教委として、性別に関係なく、生徒一人一人が力を伸ばすことができる学びの環境を重視している。男女を分けて教育することに重きを置いていない」と説明した。また、少子化の影響で2024年から15年間に、中学校卒業生が全県で25%減少するとのデータを示し、「生徒が大幅に減少する中で、多様な学びの環境を整える必要がある」と述べた。
意見交換会では参加者の質問や反論が尽きず、予定時間を超過して議論が続くこともあった。熊谷女子高の生徒は「県教委の考えは理解できたが、賛成はできない」、熊谷高の生徒は「個人としては共学化に反対だが、時代の流れで納得できるところもある」と述べた。
全9回に出席した県教委の依田英樹・高校改革統括監は「対面で忌憚(きたん)のない意見を聞くことができ、男子校、女子校、共学のそれぞれの課題や特徴・特色について互いに理解を深めることができた」と振り返った。
県立の別学校は、男子校が浦和、熊谷、川越、春日部、松山の5校、女子校が浦和一女、川越女子、熊谷女子、春日部女子、松山女子、鴻巣女子、久喜の7校。いずれも戦前の旧制中学や旧制高等女学校の流れをくむ。県男女共同参画苦情処理委員会の勧告を受けて、県教委は昨年8月、「主体的に共学化を推進していく」との報告書をまとめたが、共学化の時期や対象校は示していない。
県教委は意見交換会の結果を踏まえ、今後の具体的な取り組みを検討する方針。【加藤潔】
意見交換会で出た主な論点
<共学化反対の主な意見>
・共学化すると伝統と校風が失われる
・別学では異性を気にせず個性を伸ばせる
・別学ではジェンダー的な役割にとらわれることなく、自分たちで全てをこなす。男女共同参画の推進にもつながる
・男子校、女子校、共学校の選択肢を残すことは多様性の面で重要
<共学化賛成の主な意見>
・性別で入学できない別学校は公教育としてふさわしくない
・多様性の時代に男子と女子で学校を分けるべきではない
・新しい伝統を築くことができる
<県教委の意見(要旨)>
・少子化で生徒数が減少する中で高校再編は避けられない
・性別に関係なく、生徒一人一人の能力と希望に応じた多様な学びの選択肢を用意する必要がある
・男子と女子で同じ教育をする。男女を分けて教育することに重きを置いていない
意見交換会日程
開催日 会場 参加者 (人数)
7月25日 越谷市 中学生 (5人)
高校生 (6人)
30日 川越市 高校生 (7人)
8月 6日 さいたま市 中学生 (2人)
高校生(15人)
21日 熊谷市 中学生(14人)
高校生 (7人)
23日 さいたま市 保護者(18人)
県民(17人)
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