
困った。「イッキ見」したくなるジャンルが、ひとつ増えてしまった。
筆者は動画配信サービスで、連続ドラマを一気に視聴する「イッキ見」の常連。その習慣はたくさんの“同志”がいるはずの「愛の不時着」の頃からで、日本国内の作品でいえば「今際の国のアリス」シリーズもその対象だった。
何年か前は海外のある作品で、全20話を確か5、7、8と配分し3日間で視聴、ほとんど家から出ずに連休が終わった。初めはそのつもりはなかったのに、見始めるといつの間にかそうなっていることがあるのが「イッキ見」の恐ろしさ、いや、魅力だ。
そのイッキ見を誘うコンテンツは、ドラマだけでなくバラエティーにも進出し、浸透している。そう感じたのがAmazon Prime Videoで配信中の「賞金1億円の人脈&人望バトル トモダチ100人よべるかな?」。
全6回で、1話につき45分前後、最終回だけ1時間。驚きの出演者たちと彼らを翻弄(ほんろう)するルールの一部を、ネタバレに気をつけつつ振り返る。

突然の電話「おれたち、友達だよね……」
「トモダチ100人よべるかな?」は、こんな内容だ。
MCは「バナナマン」の設楽統とバカリズム。プレーヤーはお笑いコンビ「さらば青春の光」の森田哲矢、アイドルの河合郁人、アーティストのMattの3人。
とある一日の午前から深夜までの制限時間で、芸能界などで活躍する“友達”を東京都内の某所に最も多く集めた人が「優勝」となる。ただしプレーヤーは、企画の詳細を友達に伝えてはいけない。
連絡手段は電話をかけるのみで、例えば「おれたち、友達だよね。理由は言えないんだけど、きょうここに来て待っていてくれないか」といった具合に誰かを誘う。
呼ばれた友達は企画の趣旨や終了時刻を知らされないまま、イスも飲み物も用意されていない一室に入れられ、ひたすら待機を余儀なくされる。プレーヤーが部屋の友達と話すのは原則としてできない。
こう書くだけでもキツい環境だが、果たして友達は、友達(プレーヤー)のために、耐えられるのか。
前田敦子に京本政樹、亀梨和也……
森田は芸人の、河合はアイドルや俳優の、Mattはモデルやインフルエンサーの友達をはじめ、とにかく電話をかけまくる。
「トモダチ100人よべるかな?」というのは、もちろん小学1年生になる前後でよく聞きそうな、あの歌にかけたタイトル。
100人って、大げさな……と筆者は思っていたら、段々と集まる友達が増えてくる。例を挙げると前田敦子、若槻千夏、京本政樹、亀梨和也。ほかにもユーチューバーのラファエル、「King Gnu」の勢喜遊……。それぞれどのプレーヤーの友達かは「トモダチ100人よべるかな?」を見て確かめてほしい。
全6回の前半で驚きの「あの人」が
「トモダチ100人よべるかな?」には、驚きの場面が数々ある。
ドラマの制作ならば、当然だが、出演者の登場するタイミングや時間を自在に決められる。しかし「トモダチ100人よべるかな?」は、呼ばれた友達の都合次第で、登場の時間や、その前に誰がやってくるのかも分からない。
だから突然、スタッフも視聴者も予測できないタイミングで「ヤマ場」が巡ってきてしまう。
多くの視聴者が有数の「ヤマ場」と感じそうなのが、第2回の途中。筆者は1人で見ていたが、この人の登場には「ええーっ」と言ってしまった。その後も、あの人やこの人が会場に。
もし全6回を瞬間最高視聴率の折れ線グラフで表すとしたら、最終回まで激しく上下の波を打っているはずの展開だ。視聴者の「イッキ見」を誘うには、十分だろう。
出番これだけ……?の“無駄遣い”
また出演者の一人は、ある理由で会場に入らせてもらえず、ほんのわずかで出番が終わってしまう。地上波テレビなら、わざわざこの人を呼んで、こんな“無駄遣い”はまずやらないはずだけれど……。
大げさかもしれないが、制作陣のある種の自信さえ感じる瞬間だった。
この流れるような展開に、バラエティーではないが、映画「シン・ゴジラ」を思い出した。話の本筋もスリリングだったが、随所に「この人が、これだけのために出演を……?」という有名俳優が登場し、驚きの連続だった。
そういえば前述の前田敦子は「シン・ゴジラ」にも登場していたが、彼女の「トモダチ100人よべるかな?」での出演時間は映画よりも長い。

超インフレ空間「水1杯=40万円」
最後に、「トモダチ100人よべるかな?」の驚きのルールをひとつだけ。
プレーヤーの優勝賞金は「1億円」。私たち見る側は、テレビで「優勝賞金=1000万円」という数字が、なんとなく頭の中にインプットされている。その10倍だからすごいなと思ったが、そうシンプルな話ではなかった。
プレーヤーは会場の友達に、飲み物やイスなどをプレゼントすることが可能。うまく機嫌をとり、会場から帰らずに残ってもらおうと試みる。
ところがプレゼントの購入金額が、水=10万円、カレーライス=15万円……などと異常な高さ。
各プレーヤーが購入した分だけ、賞金1億円からどんどん引かれていく。しかも、時間がたつほど値段は高騰し、水の値段は40万円にまで跳ね上がる。さらに価格は上昇を続け……。

終了後の“ドラマ”も想像
会場の友達はそのシステムを知らず、プレーヤーに対してカメラ越しに「カレーが食べたい」「焼きそばが食べたい」などと懇願する。プレーヤーは悩みに悩み……。
「制作陣は絶対、1億円も用意はしていないな」というのはすぐに分かったが、最終的に優勝したプレーヤーが手にした金額は、どれだけ想定通りだったのか。謎は深まる。
そして想像だが、この収録が終わった後、プレーヤーたちは友達に謝罪の電話やLINE、時にはご飯をおごる……などを続けていたはず。
そんな心配までしてしまうくらい、とにかく大変な「連続ドラマ」を見た感じが今はしている。【屋代尚則】
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