イランの核開発をめぐり、国連安全保障理事会は2006年から10年にかけて、イランに対する制裁を定めた決議を複数採択した。核開発に関与したとみなされた個人や組織の資産凍結、イランの武器や関連品目の売却や移転を禁じるなどの内容で、すべての国連加盟国を拘束する。
イラン核合意を承認した15年の安保理決議は、イランが遠心分離機の数や濃縮ウランの貯蔵量を制限する見返りに、一連の国連制裁を解除することを定めた。だが決議では、核合意の当事国である米国、英国、フランス、ドイツ、中国、ロシアのいずれかがイランの不履行を訴えた場合、過去の国連制裁を復活させる「スイッチ」が設けられた。それが今回、英仏独が発動を決めた「スナップバック」だ。
通常、安保理で制裁を定めた決議案を可決するには、理事国全15カ国のうち9カ国の賛成に加え、常任理事国(米英仏中露)が拒否権を使わないことが必要となる。常任理事国が1カ国でも反対すれば新たな国連制裁は実現せず、ロシアのウクライナ侵攻などに安保理として一致した行動を打ち出せない一因となっている。
これに対し、「スナップバック」は異なる。安保理に通知して受理されると、30日以内に「制裁解除の継続」を定める新たな決議案が採択されない限り、制裁は全面的に復活する。拒否権を持つ核合意の当事国は、拒否権を行使して、新たな決議案を妨害することが可能だ。つまり、米英仏中露のうち1カ国でも望めば、制裁を復活できる仕組みになっている。
核合意を承認した15年の安保理決議は、今年10月中旬に期限を迎える。決議が期限切れになるとスナップバックも発動できなくなるため、英仏独は安保理で行われる通知後30日間の審議中にイランから譲歩を引き出す狙いで対応を急いだ。
一方、イランに近いロシアと中国は、決議の期限を半年間延長する新たな決議案を配布し、「時間稼ぎ」を模索する。ロシアはスナップバック抜きでの期限延長を望んでいるが、欧州側が受け入れる可能性は低い。【ニューヨーク八田浩輔】
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