/430 上田岳弘 倉田悟・絵

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「原初の博士?」

「はい、原初の博士は、このちゃんとしていない世界に誕生した瞬間に、さっきも申し上げた通り、すべてを理解されました。そして、自分の存在と引き換えに、小さな引力を得て、それでガラクタのような世界をどうにか構成した」

「引き換えですか? うまくイメージできません。始まったばかりの世界で、存在と引き換えにするということが、一体どういうことなのか」

 至極まっとうなはずの僕の質問を受けて、そうですね、と呟(つぶや)いたきり壁博士は俯(うつむ)いて沈黙した。何かを考えているようだった。僕は周囲を改めて見まわしてみた。ガラスの壁の向こうに並ぶコンピュータの群れ。インジケーターの緑色の小さな光。世界の壁を乗り越えてこちらの世界に来たのだと言われても、ずっと屋内だからいまいち実感が湧かない。閉じ込められた部屋に繋(つな)がる通路の電灯が違っていて、上…

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