滋賀県米原市が新規就農を検討する人に開く「まいばら農業塾」に50代の毎日新聞記者が入塾した。塾での体験を伝える連載の3回目。【長谷川隆広】
紙面での連載タイトル(「おいちゃん記者、鍬を持つ」)を決める時、頭に浮かんだイメージがこれ。鍬(くわ)で畑を耕し、畝を立てる。まいばら農業塾にその日がやってきた。ハードな作業です、と事前に事務局から連絡が。運動不足の50代、一抹の不安がよぎる。
23日午前、滋賀県米原市世継の農園に全員集合。厳しい日差しに、頭がくらっ。ちょうど甲子園では決勝が始まったころだなあ。あの炎天下でよくプレーできるものだといつも感心するけれど、農業も同じ、体力が必要なのだ。
この暑さ、服装はどうすれば? 迷った末、薄い長袖、長ズボン、それに長靴。軍手と首筋までカバーする帽子も。完全武装、でも、上には上がいた。どちらさまですかというほど見事に全身を覆い隠した人、ファン付きの服を着て送風でパンパンに膨れている人……。さすが、みなさん準備万端ですね。各人の装備に、それはいい、と笑いながら農園に立った。その時はまだ笑う余裕もあった。
作業開始前、栽培アドバイザーの常喜弘充さんから「野菜が採れるかどうか。半分ぐらいは植える前に決まっている」と助言が。え、植える前? ということは……。今日の作業がめちゃくちゃ大事ということじゃないですかー。畝立て=土を盛るだけ、私の勝手な想像は大間違い。
作業の流れはこう。畑に肥料をまき、耕運機でよく耕す。そして鍬を使って畝を立てる。実習に先立って「土づくり」の講義があった。土壌の特性や肥料の種類、作土深(さくどしん)(根が張る層の深さ)などを学んだ。畝を立てるには、作物によって異なる作土深を知る必要がある。一般的には25センチ、ダイコンなら30センチが理想だとか。作業の中で覚えていこっと。
用意された肥料は「粒状発酵鶏糞(ふん)」と、ホウ素とマンガンを含む「BMようりん」。いずれも作付け前に土にまぜて使う肥料だ。座学では有機肥料についても教わった。発酵させた牛糞、豚糞、鶏糞の中で、肥料効果が最も高いのは、鶏糞なのだとか。へー。
つい気になって「人糞は?」と、余計な質問。でも常喜さんがしっかり答えてくれた。人糞が一番、だそうだ。ただ、衛生面など問題も多かったようだ。私が幼かった頃は、まだ農地で肥だめを見る機会があった。臭かった、としか記憶にないけれど、肥料効果は高かったんだな。およそ半世紀を経て、私の「臭い記憶」に新たなエッセンスが加わった。
さあ、肥料をまく。塾生にはそれぞれ約20平方メートルの畑が割り当てられている。ビニール袋を振り振り、満遍なくまいたつもり。隣の畑では、同期生が手でつかんで隅々まで丁寧にまいている。しまった。植える前に決まっている、のだった。
耕運機を使うのは初めて。講師の手本に、案外簡単そうと、甘い考えで臨んだ本番。エンジン始動。クラッチを握る。おっ、力強く動き出した。でも、あれ、あれあれ。耕運機に引っ張られて前のめりに。土の硬さによって進むスピードが変わるみたい。一気に前に進んだり、土の中に深く入ったり。方向転換がまた厄介。この耕運機はひたすら一直線に進む。「外側に体重をかけて向きを変えて」とアドバイスも聞こえたが、ええい、曲がれ、と最後は力ずく。
終わった時には全身汗びっしょり。夢中だったので気付かなかったけれど、息も切れていた。機械だからもっと楽だと思ったのにね、隣の同期生と湯気が出そうな顔を見合わせた。一つずつ、慣れていくしかないなあ。
畝立てのエピソードは次回に。農業塾は楽しいだけの農業体験とは違う、そう痛感することになる。
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