「目のキラキラ」に魅了され職人に 伊賀くみひも・藤岡かほりさん

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重り玉を巧みに操りながら、リズミカルに帯締めを組む藤岡かほりさんの手=三重県伊賀市で2025年8月21日、山崎一輝撮影 拡大
重り玉を巧みに操りながら、リズミカルに帯締めを組む藤岡かほりさんの手=三重県伊賀市で2025年8月21日、山崎一輝撮影

 「コン、コン、コン」

 江戸中期の町家を改装した藤岡組紐(くみひも)店(三重県伊賀市)に、小気味よい音が響く。組紐職人の藤岡かほりさん(48)が、台の上で放射状に伸びた絹糸を重ね合わせ、その交差部分に竹べらを打ち込む音だ。これで糸同士の隙間(すきま)が詰められていく。繰り返すと、美しい模様が織り込まれた1本の「伊賀くみひも」が姿を現す。

 放射状の糸は台の下にぶら下がる「重り玉」と言われる糸巻きにつながっている。藤岡さんが糸を操る度に、重り玉が上下し、リズミカルに踊っているかのようだ。

 伊賀くみひもは、面が平らな平組の一種で、組目が緻密な高麗組(こうらいぐみ)の帯締めに代表される伝統工芸。糸の数が多く、柄はなめらかに表現されている。人の手で組まれるため、力のかかり方は単調ではない。そのため体に沿った帯締めができ、温かみも宿る。

 藤岡さんは東海地方の女性職人9人で作るグループ「凛九」のメンバー。「みんなと違って、自分は嫁いでから始めたんです」と話す。富山県出身で大阪の大学を卒業後、兵庫県にある葬祭業に就職した。勤務先から帰る途中、着物関連の展示会がたまたま目に入った。着物好きな実母の影響で和装に興味があり、少しだけ見るつもりで寄ったブースで同店4代目、藤岡潤全(ひろはる)さん(47)と出会った。

竹ベラを打ち込んで帯締めを組んでいく藤岡かほりさん=三重県伊賀市で2025年8月21日、山崎一輝撮影 拡大
竹ベラを打ち込んで帯締めを組んでいく藤岡かほりさん=三重県伊賀市で2025年8月21日、山崎一輝撮影

 「代々の仕事を、責任を持ってやっています。良いものを作っているからこそ、受け継いでいきたい」と話す潤全さんの目の光に魅了された。家業に対して持っていたネガティブなイメージは一掃され、「誇りを持って働いているのが強く感じられた」。

 2012年に結婚し、伊賀市に移住。元伝統工芸士の義母・恵子さん(73)と潤全さんの指導の下、職人として歩み始めた。

 「(伝統を継承する)責任感を重圧と感じるより、楽しそうという思いが強かった」と当時を振り返る。1本150センチの帯締めを初めて組んだ時は、通常の倍以上の約1週間を要したが、完成した時に感じた達成感と感動を今でも忘れられない。

 その一方で、打ち込む竹べらの力加減や角度など数値化されない職人の感覚に戸惑うこともあった。しかし、忍耐強く2人の音の強さを聞き、こらした目で角度を見て少しずつ技術を習得していった。

 23年からは、図柄の設計図「綾(あや)書き」作りにも取りかかった。柄は真っすぐではなく、締めた人の体の曲線で着姿が整うように、絶妙な角度を付けて設計。恵子さんから教わった「単に柄を並べるだけでは面白くない」という言葉に忠実に、柄の動きを流れるように表現できる綾書きを意識している。

 作品にはハート柄や猫、鳥の足跡柄など遊び心を感じさせるものも。髪飾りやベルトなども制作するのは、気軽に組紐を楽しんでほしいという思いからだ。

 19年に凛九で参加した源氏物語絵巻展と協働の展示会では、光源氏の最初の妻・葵の上をイメージして、緑を基調としたタペストリーを作った。テレビで紹介されると、見た人から問い合わせがあり、商品化が決定。着物を着ない人でも生活の中に取り入れてほしいという思いが伝わったようでうれしかった。

手組みで制作された、温かみのある伊賀くみひもの帯締め。組目の整い方など、熟練の技術が随所に見られる=三重県伊賀市で2025年8月21日、山崎一輝撮影 拡大
手組みで制作された、温かみのある伊賀くみひもの帯締め。組目の整い方など、熟練の技術が随所に見られる=三重県伊賀市で2025年8月21日、山崎一輝撮影

 今年で職人歴13年目。しかし、恵子さんの作品と比べて「自分はまだまだ未熟」と感じる。出会ったころの潤全さんの目の輝きは、努力に下支えされた自信と誇りがあってこそ。「あのキラキラに自分はまだ及びません」と話しながらも、使ってくれる人の喜ぶ姿を糧に歩み続ける。「一生勉強です」という言葉に強い覚悟がこもっていた。【山崎一輝】

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