(1)グレゴリー・ケズナジャット『トラジェクトリー』(文芸春秋)
(2)日比野コレコ『たえまない光の足し算』(文芸春秋)
(3)駒田隼也『鳥の夢の場合』(講談社)
海外への憧憬 失われた時代
第一七三回芥川賞・直木賞は両賞とも該当作なしとなった。元書店員としては至極残念だが、賞としては健全なことだとも思う。書店の後押しと次への期待をこめて、今回は芥川賞候補作から三作を紹介したい。
英会話教師の職を得て、漫然と名古屋に暮らすブランドンの見る日本を、同僚や生徒との交流をとおして描く(1)は、アポロ計画に執心し、事ごとに蘊蓄(うんちく)を語る生徒のカワムラや、グローバル思考を浅薄に説く、学校の責任者のダイスケなどの人物造形が鮮やかだ。二人に体現される海外への憧憬(しょうけい)が失われはじめた、おそらく二〇一〇年前後のこの国の空気を、的確に映し出す語り手の眼差(まなざ)しは、読み…
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