平熱のまま醒(さ)めているままダリの時計を顔にかぶりたい、今 大津市 世田夏雪
<評>『記憶の固執』である。溶けて柔らかくなった時計をかぶる。すさまじい衝動だ。個性的なリズムだが31音になっている。
ポエトリー・リーディング付きデスマッチ、ノーロープ・有刺鉄線にて雲南市 熱田俊月
<評>詩の朗読のあるデスマッチとは優雅で破天荒だ。命...
結論をまづは述べよと言ふ息子よ長々話すを母は楽しむ 奈良市 片山恭子
<評>ユーモアを感じさせる面白い歌。文体から察するに、落ち着いてしっかりした母だ。その母に息子は何と答えただろう。
もうずっと前から言っていただろう 暑い、腹減る 熊の限界 池田市 黒木淳子
<評>人里への熊の出没に脅かされているが、熊には熊の言い分があるのだと歌...
昼顔や老人ホーム音もなき 青梅市 持田砂地女
<評>食事やレクリエーションの合間の静まりかえった時間。ヒルガオの花の明るさ、寂しさが空白感を際立たせる。
語らへば星座傾くキャンプの夜 仙台市 引地恵一
<評>満天の星の下でのキャンプ。語らう時間の経過を「星座傾く」で表したのが巧みだ。
なみなみと土用蜆(しじみ)の父の椀(わん…...
梅雨晴やもう一度拭く窓ガラス 和歌山市 曽根澄子
<評>久々に晴れた一日、家のあちこちの掃除に精を出す。窓ガラスを徹底的に磨きあげることで気分も晴ればれしたことだろう。
木立より不意にしづかに揚羽蝶(あげはちょう) 西宮市 平田あい
<評>夏のチョウはアゲハチョウなど大型のものが多い。「不意にしづかに」が…...
葬列に空より落つる蟬(せみ)の声 相模原市 はやし央
<評>野辺送りの葬列を思い浮かべた。「空より落つる」とは、死者を悼み、参列者を慰めるようにセミが鳴きしきることではと思う。
炎昼や足元に影うずくまる 延岡市 河野正
<評>真上から、日差しが照りつける。その激しさに、影は動くことができないのだろう。
出発の空砲一つソーダ水 出雲市...
再診のハンカチ固く握り締む 宮崎市 境雅子
<評>医師の前で診断を聞く時、手のひらまで汗がにじむ。緊張感と不安が伝わってくる。結果はどうだったのだろう。
少年もうつむき帰る極暑かな 河内長野市 滝尻芳博
<評>暑さのせいか、試合に負けたか、普段は元気な少年の姿に読み手の心もうちひしがれる。
電線のカラス口開く暑さかな 豊田市 松本…...
城山真一『金沢浅野川雨情』(光文社)は、金沢の茶屋街が舞台のミステリーだ。当地で人気と実力を誇るベテラン芸妓(げいぎ)なつ江の遺体が発見され、強盗殺人が疑われる。
本書の最大の特徴と魅力は、殺人事件を縦軸にしながら、その捜査内容があまり描かれない点にある。第1章の視点人物は水引細工職人の中年男だ。離婚経験のある彼は店主の母に頭が...
国は黙殺 責任担う「刻む会」
周防灘は鏡面を張ったように穏やかな表情を見せている。だが、床波(とこなみ)海岸(山口県宇部市)の浜辺から沖合に目をやると、妙な“違和感”に襲われて気持ちが波立つ。海面から突き出た2本の円筒――海中に土管を埋め込んだかのような不自然な光景は、この海の底に、かつて炭鉱があったことを示している。
1914...
「ええ、もちろんそう言うでしょう。そう言うことになっていますから。この世界はすぐに消えて行く泡沫(ほうまつ)としての世界だった。あなた方のちゃんとした世界とは真逆の存在です。それが、ここまで生き残り、発展していることす...
藤沢の静かな勝負手
午前中は珍しく髪をおろしていた上野だが、午後からはいつものようにポニーテールに変わっていた。
本譜は両者、時間を使って慎重に打ち進めている。序盤で時間を使わずにいたのは、中盤で投入するためだった。白48のブツカリに15分、黒49のコスミツケに18分、黒59のトビに10分、白60のハネに16分。黒63から藤沢は...