
「ヤァーーー!」
震災から1年7カ月を迎えた1日。カンカン照りの日差しを浴びながら、6人の男たちが荒々しく太鼓を打ち、舞台を舞った。
石川県輪島市東部、名舟地区の名舟大祭で披露された御陣乗(ごじんじょ)太鼓の奉納打ちだ。戦国時代、攻め込んできた上杉謙信の軍勢を追い払うため、地元の村人たちが面を付け、太鼓を打ち鳴らしたことが起源とされる。
元々、名舟大祭は毎年7月31日と8月1日の2日間開催され、1日目は、神輿(みこし)と前後に計4基のキリコが町内を練り歩いていた。
しかし、能登半島地震時に土砂崩れが発生。舞台とその下にあるキリコを保管する倉庫を飲み込んだ。キリコを取り出せたのは約1年半後の今年6月。倉庫には土砂の流入もあり、キリコなどにも被害が出た。
住民の多くが名舟に戻っておらず、キリコがまだ使えないことなどから前年同様、今年の祭りも規模を縮小し、神事と太鼓の奉納打ちのみを実施した。例年と異なる祭りの中で、太鼓の響きだけは変わらない。打ち手として参加した御陣乗太鼓保存会事務局長の槌谷博之さん(58)は「名舟の町を守ってくれたのがこの太鼓だから」とこれからも伝統を守る覚悟を示す。
舞台の周囲は災害の爪痕が今も残ったまま。「復興は全然できていない」と槌谷さん。それでも「地震に負けないで頑張っている姿を見てもらいたい」との思いで臨んだ。約10分間の奉納打ちが終わると集まった観客からは惜しみない拍手が送られていた。
【岩本一希】
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