石川県の能登半島では、2024年元日の地震で海底隆起が各地で発生した。藻場の消滅や漁港機能の喪失など隆起による「マイナス」の影響は計り知れない。しかし、新たな海岸を舞台にした海遊びを通じて「プラス」の側面にも目を向けてもらおうというイベントが同県輪島市門前町黒島地区であった。
「貝殻が付いている所までが海でした」。高くそびえる岸壁を前に、杉野智行さん(38)は親子連れに説明する。一行がいるのは地区にある黒島漁港の湾内で、地震前は海中だった場所。地震から約1年7カ月が経過した今、湾内の地面には細かい砂が広がり、雑草が青々と茂っていた。
地震で漁港周辺の海は4~5メートル隆起し、海岸線も200~300メートル沖へ移動。漁港内にはところてんの原料となる天草(てんぐさ)が自生していたが、海が干上がり死滅したことでサザエやアワビが激減。漁港の機能も失われ、船を出すことができなくなった。
黒島地区で復興に取り組む一般社団法人「湊」代表理事の杉野さんは、同県白山市のボードショップ「スタイリーベース」と今回のイベントを共催。集まった親子約15人は、地震後にできた入り江と海岸でシュノーケリングとスタンドアップパドルボード(SUP)を楽しんだ。
貸し切り状態での海遊びに子どもたちは大はしゃぎ。金沢市から母親と一緒に参加した中山裕貴ちゃん(6)はゴーグルを使っての魚の観察に興味津々。「楽しかった、また来たい」と笑顔だった。
地震で失ったものがある一方で、安全に遊ぶことができる入り江など得たものもあったと杉野さん。「海の中を歩いて観察できる場所は他にない、『陸の水族館』ですよね」と笑顔で語る。
現在、湊では漁港から漁船を出す設備の整備プロジェクトなど、失ったものを取り戻す活動も進めている。イベントの最後、「この楽しいフィールドを未来にどうつなぐかを考えてほしい」と呼びかけていた杉野さん。海と共生する黒島の住民として、海遊びをきっかけに海への関心を持ってほしいと願っている。【岩本一希】
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