
(講談社選書メチエ・2090円)
米国とは異なる王国の逸話の数々
白人社会と異民族問題というと、誰もが西部劇で見慣れた、アメリカ西部におけるネイティヴ・アメリカン(かつては「インディアン」と言う言葉で一括(ひとくく)りされていた)と騎兵隊の戦いを思い出す。同時に、アメリカ南部を中心とした綿花産業に窘迫(きんぱく)化されていたアフリカに出自を持つ黒人奴隷のアメリカ社会における地位の変遷も、もう一つのお馴染(なじみ)の話題となる。公民権運動とも繋(つな)がる後者の問題は、リンカーン以来のアメリカの政治課題であったし、差別の問題が完全に片付いたとは言い切れない状況が残ってもいる。私たちの常識は、この課題は専らアメリカの問題である、と告げる。しかし。
評子の個人的な経験を記すことをお許しいただきたい。生物進化論の問題に取り組んでいたときに、例のイギリス国教会の重鎮、「口達者な<Soapy>サム」ことサミュエル・ウィルバーフォースが、ダーウィンに代わって論争の矢面に立ったハクスリたちに対して、サルを祖先にしていることを尋ねる、という方法でダーウィン説への強烈な反対を示したことを知った。ところが図らずも、その「サム」の父親が、イギリスにおける奴隷…
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