5日に開幕する第107回全国高校野球選手権大会に初出場する滋賀代表の綾羽。県大会では強打が印象に残ったが、もう一つの特徴が全5試合でいずれも3人以上が登板した多彩な6人の投手陣。千代純平監督が特性を見極めたピッチャーたちによる「適材適所の継投策」が甲子園初出場初勝利への鍵だ。
綾羽は県大会5試合でチーム打率3割6分7厘、長打16本、49得点と打撃の破壊力を誇った。一方、投手は登録された6人がすべてマウンドに上がり、準々決勝以降の3試合は3点以上奪われた。
一見すると投手力に難があるようにも見えるが、決してそうではない。千代監督は「継投は軸となる投手がない中での次善策」としながらも「試合前にゲームプランを説明し、どんな状況で登板するか理解しておけば、すんなり試合に入れる」と継投策のスタイルに自信を持つ。
その土台になっているのが千代監督による投手の特性の見極めだ。技術はもちろん、性格も重視している。
5投手で継投した決勝戦は、象徴的だった。先発は背番号1の左腕・藤田陸空(3年)。最速135キロの直球とスライダー、チェンジアップを軸に打たせて取るのが持ち味だ。一回の2失点で「これ以上迷惑はかけられない」とエースとして奮起。強気の内角攻めで大会の自身最長となる6回3分の1を2失点に抑えた。
ここから「継投の妙」が表れる。七回1死二塁で救援した2番手の右腕・市場仙人(2年)は試合前から「塁が空いているピンチ」での登板を告げられていた。球威が武器で四球OKの場面なら実力が出せるとの千代監督の狙い通り、後続を封じて役割を果たした。
相手が2番からの好打順の八回は左腕・米田良生有(同)が先頭からマウンドに。4点リードしていたが反撃の機運を与えたくない重圧のかかる場面。だが、自他共に認める「物おじしない性格」で持ち味の高い制球力を発揮し、無失点でバトンを渡した。
九回のマウンドは公式戦初登板の右腕・川北涼(同)。6月の練習試合で津田学園(三重)や京都国際(京都)を相手に好投して初のベンチ入りを果たした。先頭打者への四球の後、次打者を遊飛に仕留めたが、次は死球。「緊張で制球が乱れた」と川北。1死一、二塁で救援を仰いだ。
実績のない投手に初優勝がかかる九回を任せるのは大胆な采配にも思えたが、千代監督は計算ずくだった。「決勝の九回は何が起きてもおかしくない。残り3投手を全てつぎ込むつもりでいた。ならば川北をまず投げさせて1死でも取り、ピンチになれば実績ある投手で、と考えた」
「後は任せろ」と川北に告げ、最後に登板したのは打者に背中を向ける変則フォームが特徴の右腕・安井悠人(3年)。千代監督は「他人が出した走者を背負うと、なぜか良い球を投げる」と評する。内野安打と二ゴロで1点を返されたが、2死にこぎ着け、最後は平凡な中飛で試合を終わらせた。安井は「冷静に一つずつアウトを取ることだけ考えた」と笑顔で振り返った。
決勝では登板がなかった元木琥己(2年)は準決勝の近江戦で、打っては九回に逆転につながる適時三塁打を放ち、投げては八、九回を無失点に抑える活躍を見せた。
投手陣だけでなく、綾羽はベンチ入りした20人全員が一度は県大会に出場した。初の聖地でも総力戦で勝ちに行く。【礒野健一】
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